いま日本の自動車市場で、もっとも売れている車両クラスは「軽自動車」で、シェアは27%。それに次ぐのが「コンパクトカー」で、17%となっている(台数ベース。2015年、自販連調べ)。両者を合わせると44%となり、新車販売の半分近くを占めることになる。
なかでも軽自動車の市場では、激しいシェア争いが繰り広げられてきた。日本の自動車ユーザーは燃費を重視するため、販売競争は「燃費競争」という“代理戦争”に形を変え、各メーカーは0.1km/lでも他社を上回ろうとしのぎを削っている。その競争に取り残されそうになった三菱自動車が、燃費計測不正に走ったのは記憶に新しい。
その波がコンパクトカーの市場にも押し寄せようとしている。このクラスはトヨタ「アクア」、ホンダ「フィット」、日産「ノート」が3強で、中でも「アクア」は他の2つを圧倒し、昨年、国内の新車販売で全車種のうちもっとも売れた。人気の背景はハイブリッド車ならではの燃費の良さだ。クラス内で世界トップレベルの37.0km/l(JC08モード)を誇る。
だが、これを上回るクルマが登場したことで、コンパクトカー市場でも燃費戦争が勃発しようとしている。11月2日、日産は「ノート」をマイナーチェンジし、「e-POWER」というハイブリッド版を追加すると発表。「ノートe-POWER」の燃費は37.2km/l(e-POWER Sの場合)で、わずかだが「アクア」を上回ったのだ。
「e-POWER」は、エンジンを発電機として利用し、発電した電力を電池に貯めて電動モーターで走る、いわゆる「シリーズ式ハイブリッド」というしくみ。加速性能に優れ、静粛性が高い電気自動車の走りのメリットを享受しながら、充電の必要はなく、ガソリン車と同じように給油するだけでよい。
日産は「アクア」打倒のため、まさに“切り札”を投入したといえるが、自動車業界に詳しい経済ジャーナリストの池原照雄氏は、影響はそれだけに留まらないという。
「ドライバーはクルマを燃費だけでなく、走行性能や使い勝手、乗り心地などさまざまな点から評価します。もし『ノートe-POWER』がヒットすれば、他社への影響も大きい。これまでマツダもシリーズ式ハイブリッドの開発をしていますし、スズキも以前プロトタイプを発表していたので、開発に拍車がかかる可能性はあります。シリーズ式は構造がシンプルで、価格も抑えられるので、他社が追随しても不思議ではありません」
既に「アクア」と「フィット」で、クラストップの燃費を競い合ってきたコンパクトカー市場。日産が「ノート」初のハイブリッドを投入したことで、燃費戦争がさらに加速していくのは間違いないだろう。