パンに塗るものといえば、かつては「バターよりマーガリンのほうが健康的」というのが“定説”だった。ところが近年、それが覆りつつある。ハーバード大学で食と健康に関する研究をしていた米国・ボストン在住の内科医師・大西睦子氏が言う。
「2014年に英・ケンブリッジ大学のラジヴ・チョードゥリー博士らが、心疾患に対してバターなどの飽和脂肪酸を制限し、魚などの多価不飽和脂肪酸を多く摂取することを支持する証拠はないという論文を発表し、多くの米メディアが大々的に『バター復権』と報じました。専門家の間では論文への疑問も上がっているものの“バター悪玉論”は薄れつつあります。
一方、マーガリンに含まれるトランス脂肪酸については、心疾患のリスクになるとの研究が相次ぎ、米食品医薬品局(FDA)が食品への使用規制に動き出すなど、アメリカでは風当たりが厳しくなっています」
ポリフェノールを多く含むことから「健康にいい酒」とのイメージを持たれる赤ワインの「誤解」もある。ワインに含まれるポリフェノールの一種・フラバノールが血圧、心血管疾患の改善やインスリン抵抗性の減少、認知機能の改善などをもたらすとされている。
が、このフラバノールはワイン特有のものではない。「フラバノールは紅茶や緑茶、ブドウやリンゴなどの果物にも含まれていて、わざわざワインを飲む必要はありません。赤ワインが1 あたり80~300mgに対し、紅茶は60~500mg、緑茶は100~800mgで、むしろ赤ワインより多い」(前出・大西氏)
同じくフラバノールを多く含むとして健康効果が期待されるのがチョコレートだ。
新鮮なカカオ豆は約10%ものフラバノールを含んでいるが、市販のダークチョコレートのフラバノール含有率は0.5%にまで下がる。カカオ豆はそのままだと苦すぎるため、過熱化などの処理がなされた上で、砂糖、牛乳、バニラ、乳化剤などが加わり、成分量が調整されるからだ。ミルクチョコレートやホワイトチョコレートの場合、フラバノールがほとんど含まれていないものが多いという。
※週刊ポスト2016年11月11日号