1991年に始まった特定保健用食品(通称トクホ)といえば、花王「ヘルシア緑茶」やサントリー「黒烏龍茶」などのヒット商品により、市場規模は6400億円(2015年度)に達する人気ジャンルだ。消費者庁許可というお墨付きもあって、健康を気にする消費者たちからの信頼も厚い。ひとつの食品がトクホの許可を受けるには、新規成分なら審査期間は平均で2年。開発費用は平均5000万~6000万円程度もかかるといわれる。
審査を受ける際には根拠となる論文の提出が義務付けられており、トクホを名乗るまでのハードルは高い。しかし、『「健康食品」ウソ・ホント』(講談社刊)の著者で群馬大学名誉教授の高橋久仁子氏は、論文と商品広告に乖離のあるケースがあると指摘する。
例えば「脂肪の吸収抑制」を謳う飲料「A」のケースを見てみる。Aには難消化性デキストリン(以下、難デキ)という、水溶性の食物繊維(原料はトウモロコシ)が含まれる。トクホ商品の約30%に含まれている成分だ。
その難デキを含む飲料を飲んだ実験群と、含まない飲料を飲んだ対照群との差を調べた論文には難デキの有意性が記されているが、
「『A』の商品パッケージに記されている難デキの量は根拠論文の実験の3分の1です」(高橋氏)
難デキは脂肪吸収を抑えるほか、「血糖値の上昇を穏やかにする」、「整腸作用」などの効果があるとされている。高橋氏が続ける。
「難デキが入った飲料のなかには『血糖値』と『脂肪』の両方の効果を謳うものもあります。しかし“糖の吸収を穏やかにする”根拠となっている実験では被験者に米飯だけを食べさせ、“中性脂肪の上昇を穏やかにする”実験では高脂肪食を食べさせていました。米飯だけを食べて高血糖になっても、一緒に脂肪をたくさん摂れば血糖上昇は抑制されます。2つの効果を謳うなら同一の食事条件で実験すべきです」
体脂肪を減らす効果を謳う飲料「B」の論文にはこんな記述がある。
「8週間『B』を飲用することで、『腹部の脂肪面積』が減ったことが記され、この論文の一部はメーカーのホームページや広告にも載っています。ところが、私が出典論文を取り寄せて調べたところ、8週時点で実験群の体重は実験開始時から減っていたのですが、12週では増えていたのです。
しかしその点はホームページなどには掲載されていません」(高橋氏)
※週刊ポスト2016年11月11日号