韓国の朴槿恵大統領を境地に追い込んだ知人女性への機密情報漏洩スキャンダル。国政が「大統領の友人」によって左右されていたという、先進国ではありえない事態に韓国国民は大きなショックを受けた。
しかし、その知人女性・崔順実(チェスンシル)氏(60)とその元夫で朴氏の秘書室長だった鄭允会(チョンユンフェ)氏(61)の存在は、多くの主要マスコミが知る公然の秘密でもあったことは異様でもある。
韓国は大統領の権限が強く、大統領に批判的な記事を書くと拘束されたり、職を奪われることもある。大手メディアは権力に立ち向かおうとしない。ではなぜ、今回だけは報道されたのか。実は今回のスクープを報じたのは大手メディアとは言えないケーブルテレビ局だった。大手韓国紙のベテランデスクが言う。
「崔順実のパソコンという決定的な証拠を入手したのは、JTBCというケーブルテレビ。もともと政権べったりではない報道が多く、信頼性の高い報道機関だった」
しかも、今回のスクープは、「韓国の池上彰」と呼ばれる人気キャスターによるものだった。
「JTBCの社長兼キャスターである孫石煕(ソンソクヒ)氏です。彼は“韓国の良識”と評されるキャスターで、『パソコンの内容を公開するなら会社に税務調査を入れる』と当局に脅されても屈しなかった。今回の報道で孫氏の人気は沸騰し、次期大統領候補との呼び声まで出ている」(同前)
世論が動くと大メディアも黙っていられず、手のひら返しで追随した。その姿勢は検察にも通じると韓国政治が専門の新潟県立大学・浅羽祐樹教授が言う。
「以前から崔順実による財団の資金流用疑惑が告発されていましたが、検察は1か月間これを放置した。韓国の検察は事実上、大統領府にコントロールされています。今回もJTBCによるスクープがなければ検察は動かず、疑惑で終わっていた可能性が高い」
あらゆる面で法治国家とは思えない事態が続く韓国。現在、韓国内ではメディアと国民が一体となり、ヒステリックなまでの朴政権への抗議デモが続く。
あまりに感情的な反応は、日本人の目には奇異に映るが、韓国社会の特徴を作家の井沢元彦氏が解説する。
「問題が発覚すると、異様なまでのバッシングに走るのは韓国ならではです。韓国には『恨』という独特の感情があり、恨み辛みや不満を生きるエネルギーに転換する。今回は清廉潔白なはずの朴槿恵に裏切られた思いから、国民全体の『恨』が爆発した。韓国の歴代大統領がやめた瞬間にスキャンダルに塗れるのも、今回の騒動も、足を引っ張り合う国柄が背景にあります」
コンクリートより硬いと言われた朴政権の支持層は崩壊し、支持率は10%を切った。朴政権は風前の灯となっている。
※週刊ポスト2016年11月18日号