星稜高校野球部監督・林和成氏が証言
高校野球が人気を集めるのは、時に信じられないドラマが起こるからだ。2014年7月27日、全国高校野球選手権大会の石川大会決勝「星稜高校vs小松大谷高校」で起きた奇跡について、星稜高校野球部監督の林和成氏が振り返る。
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実はあの試合、早い回から諦めの気持ちが強かったんです。序盤の失点は監督の私のサインが原因でもあり、試合中なのに後悔の念ばかり。小松大谷のエース・山下(亜文)君の出来もよく、打つ手がなかった。0-6の局面では円陣を組んで「5回までに2点返すぞ」とカツを入れたものの、逆に4回と5回に1点ずつ失って8点差。“今年は(甲子園に)縁がなかったな”と思っていましたね。
雰囲気が変わったのは、9回表に再登板させたエース・岩下(大輝)が3者三振に切ってから。負けても悔いが残らないようにとチームの中心である岩下に任せた結果、その裏の攻撃につながった。
9回裏はまずレギュラーを外れていた主将が代打で四球、続けて代打に送った3年生がタイムリー三塁打。“苦労人”の2人で1点を取り、空気がまた少し変わる。
タイムリーが続き、5番の佐竹(海音)は三振振り逃げ。この試合、小松大谷の唯一の守りのミスでした。さらにタイムリー、そして2ランホームランが出て6-8です。球場のボルテージが一気に上がったのがわかりましたね。
引っくり返せる──そんなムードの中、8番が「待て」のサインを無視してファーストフライです。正直、怒鳴ってやろうと思いましたよ。でも、ベンチで選手たちは笑顔で迎え入れている。それを見た瞬間、最後まで彼らに任せようと決めた。その後の1死一、三塁の場面も、スクイズのサインを出すのをやめました。結果、連打でひっくり返してしまった。
「こいつら凄いな」と思ったのは、2アウトになってからも、自分たちを信じて初球から打っていったことです。私は逆転を信じながらも、同点になった時点で延長に備えて部長と守備の相談をしていた。だから実はサヨナラの一打を見ていない(苦笑)。
培ってきた技術と精神力が、あの1イニングに凝縮されていた。あの試合は奇跡ではなく、選手たちの実力だったと思っています。
※週刊ポスト2016年11月18日号