「小池劇場」で注目を集めた豊洲市場の地下水問題。だが本誌は築地市場で使われている水にも問題があるというデータを入手した。
築地市場で使われる水槽の水は市場内だけに供給されている「ろ過海水」だ。市場の背後を流れる隅田川と東京湾の海水が入り混じる汽水域(海水と淡水が混じり合っている水域)からポンプで汲み上げるため割安で「加工前の活魚水槽用の水」としても使用が認められている。よって、飲みも触りもしない豊洲の地下水に比べれば、はるかに我々の“食”に直結している。
都は飲用水基準(水道水質基準)に準じた測定方式で年1回、48項目にわたって定期検査を行なっているが、その結果は公表されていない。そこで本誌・週刊ポストは今回、情報公開請求を通じて3年分の「水質試験結果書」を入手した。
すると、昨年8月に採水されたろ過海水から、基準値(1リットルあたり0.1mg)の1.6倍の「トリハロメタン」が検出されていたことが判明したのだ。ここで知っておくべきは「基準値」とは何かだ。
築地のろ過海水に適用されている飲用水基準は「生涯にわたって飲み続けても健康に影響を生じない水準」(同前)で設定されている。確かに築地のろ過海水は、ごくごく飲むわけでもない。食品の加工に直接用いなければ、「基準値超え」に目くじらを立てる必要はない、という判断がなされている。
安全サイドに立って情報公開は徹底して続けるべきだ。だが「基準値超え」の築地の水槽水で泳ぐ魚を食べて、これまで平気だったというのも厳然たる事実だ。安全に配慮を尽くして設定された「基準値」の意味を劇場型知事と大メディアの組み合わせで歪めてしまったことはなかっただろうか。
しかも、築地のろ過海水には他にも懸念すべき点がある。5年前の2011年12月、取水口からわずか100メートル上流の隅田川の川底の土から環境基準値の3倍の猛毒・ダイオキシン類が検出されたことがあるのだ。
東京の食の安全を真剣に考えるならば、開場から81年を経過した築地市場は老朽化が進み、衛生的とは言い難い。
「屋根と柱だけの開放型施設だから荷捌き場にも空調がない。スペースも狭いため暑い夏でも生鮮食料品の箱が屋外に山積みされている光景があります。ねずみを見るのは当たり前。設備もガタガタで、ゲリラ豪雨の日の青果仲卸売場では排水溝から下水が吹き出していました」(市場勤務経験のある都庁職員)
※週刊ポスト2016年11月18日号