「世界で戦うための体制を作る」──10月28日、12年ぶりの社長復帰(会長兼務)を決めたエイチ・アイ・エスの澤田秀雄氏(65)は会見でそう語った。しかし、創業者である「超ワンマン」の復帰に「なぜいま?」の声が集まっている。
というのも、同社はここ数年増収増益で、順調に業績を伸ばしていた。澤田氏がわざわざ「(旅行事業で)攻めのM&A」「5年以内に売上高倍増で1兆円企業へ」と掲げてトップに復帰したのはなぜか。『経済界』編集局長の関慎夫氏がいう。
「創業者ならではの猛烈なる『飢餓感』が澤田さんにはあったと思います。業績悪化などがあるわけではないが、『今攻めなければ』と思ってしまうのです。後を託した経営陣に対して、『もっとチャレンジしてほしい』という考えが拭えなかったのでしょう」
加えて関氏は「孫(正義)さんから刺激を受けているのではないかとも思います」と続ける。
孫正義ソフトバンクグループ社長は、自ら後継者としてヘッドハントしたニケシュ・アローラ氏への禅譲を今年6月に取りやめ、「もう少し続けたい」との思いを吐露して社長続投を決めた。会長などの立場でアドバイスするよりも、社長として陣頭指揮を執りたいという気持ちになるのは、“ワンマン創業者”に共通したもののようだ。
「『自分の手を離れてもこの会社は成長し続ける』と思って任せたが、いざ任せると『まだダメだ』と思ってしまうパターンは多い。創業者が考える爆発的な成長と後継者が考える安定的な成長は違うんです。ユニクロの柳井正氏も一度社長を退いて復帰していますが、カリスマ性のある経営者ほど悩まされる“病”のようなものです」(前出・関氏)
復帰の理由について「意思決定を速くしたい」とも語った澤田氏だが、後継者の決定はなかなかできそうにない。
※週刊ポスト2016年11月18日号