高齢者は運動のやり方も要注意
「健康で長生きするためには適度な運動が不可欠」と皆が言う。だが、果たして「適度な運動」とはどの程度のことなのか。知識もないままに闇雲に体を動かし続けた結果、かえって体を痛めてはいないか。
今年、80万部の大ベストセラーとなった『どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法』が話題を集めたように、“体の柔らかさ=若々しさや健康の指標”と考える傾向がある。
ただし、柔軟性を維持するためのストレッチ運動も筋トレ同様「やり方次第」であることに留意が必要だ。『坂詰式正しい「筋トレ」の教科書』などの著者で、パーソナルトレーナーの坂詰真二氏(スポーツ&サイエンス代表)が語る。
「脚を180度左右に開いて前屈する姿はインパクトがありますが、日常生活で脚を開くとか体を捻るといった“横の動き”はほとんど必要とされていません。歩く、走る、座るなど、8割以上は“前後の動き”です。ストレッチ運動としては“ベターッと”は優先度が低いと思います」
坂詰氏が懸念するのはそのリスクだ。
「高齢者は骨盤が後傾していますが、その状態で前屈するのは背骨への負担が大きい。そもそも脚を180度開くのは解剖学的にも開脚の限界を超えている。競技の性質上、そうした動きが求められるフィギュアスケートや体操の選手でも、股関節痛に悩まされる選手を何人も見てきました。
長年の練習で開脚を身につけるアスリートでもそうなのですから、短期間での“ベターッと開脚”は股関節や背骨への影響に注意しなければいけない。高齢者が柔軟性を持つことは良いですが、過剰な柔らかさを求めるべきではありません」
※週刊ポスト2016年11月18日号