ビデオシネマ、略して「Vシネマ」は1989年に誕生した。レンタルビデオ業界は、前年12月に店舗数が1万店を突破するほど急成長していたが、肝心の作品が不足。また、利用層は15~35歳の男性が8割を占めていた。
この市場に目を付けた東映が、劇場映画よりも安く製作でき、かつ男性を意識したオリジナルビデオのレーベル「Vシネマ」を立ち上げたのだ。
1作目となった世良公則主演の『クライムハンター 怒りの銃弾』は、初回出荷1万8000本に達する大ヒット。東映はこの年、22作品で50億円超の売上高を記録した。翌年以降、他の映画会社はもとより、テレビ局やレコード会社、商社までもが参入し、Vシネマは巨大市場となる。
1994年には東映が、宮崎ますみ主演の『XX 美しき凶器』を発表し、世間に衝撃を与える。宮崎は「あのシーンの露出は中途半端ではありません? どこまで脱ぐかハッキリしてください」と監督に聞くなど積極的に取り組み、初ベッドシーンを熱演。
「男の好きなアクションと有名女優のセクシーシーンの組み合わせが受けて人気が沸騰。レンタルショップでも一般作品コーナーに並べてあり、周囲の目を気にせず手を伸ばせたことも人気につながった」(Vシネマに詳しいライターの石田伸也氏)
女性の染色体XXと、日本のR指定にあたるアメリカ映画のX指定を超えるという意味が込められたという『XX』はシリーズ化される。大女優の夏樹陽子が『美しき標的』でレズシーンに挑み、ジャズシンガーの真梨邑ケイが『美しき獲物』でSMプレイを披露した。
同シリーズのヒットにより、他社も有名女優を主役に据え、ハードボイルドなストーリーとエロスで魅せる作品で対抗した。
その中でも人気を呼んだのが『Zero WOMAN』シリーズだ。1995年の1作目『警視庁0課の女』は劇場版だったが、缶コーヒーのCMで癒し系女優としての地位を確立していた飯島直子が、ダーティーな仕事を行なう女刑事を好演。当時、「いまの私が見せられるギリギリの線」と語った彼女はシャワーシーンで豊満な乳房を見せ、大きな話題を呼んだ。
4か月後にはVシネマで、アイドル出身の小沢なつき主演の2作目が発売。1996年の3作目では、武田久美子がバストを揺らしながら吐息を漏らすなど大人の色気を見せ、同年度のレンタル回数ベスト3の大ヒットを記録した。
テレビや映画のような厳しい規制のないVシネマは、自由闊達な表現のできる映像の楽園なのである。
※週刊ポスト2016年11月18日号