競馬は秋のGIシーズンを迎えたが、20年近く経った今でも語り継がれる伝説の名馬がいる。1998年11月1日、東京競馬場で行われた第118回天皇賞(秋)で、圧倒的な1番人気になりながら、悲劇的な結果を迎えたサイレンススズカについて、競馬評論家の阿部幸太郎氏が解説する。
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悲劇の大番狂わせだった。1998年の天皇賞(秋)、6連勝中のサイレンススズカは単勝1.2倍という圧倒的な1番人気に推されていた。手綱を握るのは、前年、結果を出せないでいたサイレンススズカに“大逃げ”の才能を見出した武豊・騎手。
前半1000メートルを平均より3秒早い57秒4のハイペースでぶっ飛ばし、3コーナー手前で2番手を10馬身引き離す。誰もが勝利を確信した瞬間、サイレンススズカは突然、ガクンと失速。府中の大観衆の歓声は悲鳴に変わった。
左前脚の骨折だった。通常、トップスピードで競走馬が骨折すると、転倒して騎手が大ケガを負うが、この馬はバランスを崩しながらも3本の足で踏ん張り、ゆっくりとコースを外れていった。まるで、鞍上の武騎手を危険から守っているようだった。
レース後、予後不良で安楽死処置に。武騎手はその晩、生まれて初めて泥酔した。
※週刊ポスト2016年11月18日号