「健康で長生きするためには適度な運動が不可欠」と多くの人が言う。だが、果たして「適度な運動」とはどの程度のことなのか。知識もないままに闇雲に体を動かし続けた結果、かえって体を痛めてはいないか。長生きするための運動が、皮肉にも逆効果となることもある。
今年7月に趣味のサイクリング中に転倒して頸髄損傷の重傷を負った谷垣禎一・前自民党幹事長(71)は、現在も入院中だ。サイクリング人口は約830万人といわれている(「レジャー白書2014」より)。
「ロードレーサータイプの自転車は30~40キロの速度が出るうえに、小石のような障害物でもハンドルを取られることがある。そうした時に危険を回避するのは反射神経と瞬発的な筋力ですが、それらは加齢とともに衰えが進行しやすい機能です」(大阪樟蔭女子大学健康栄養学科の石蔵文信教授)
もちろん転倒時には車との接触事故なども起きる可能性があるだけに高リスクの運動といえるだろう。
高齢者が親しむスポーツに挙がったマラソンにも死亡リスクが指摘されている。東京都健康長寿医療センター研究所の青柳幸利・老化制御研究チーム副部長は、「そもそもマラソンは高齢者にとって“中強度の運動”の域を超えている」と指摘する。
「高温・多湿の夏場のマラソンやジョギングによる熱中症は必ずしも高齢者に限ったリスクではありませんが、冬場の場合は急激な外気温変化や血圧・心拍変化によって脳卒中や心筋梗塞を誘発しやすく、特に高齢者のリスクが高い。
また、起床から間もない時間では血液がドロドロに近い状態なので、余計に血栓が詰まりやすい。高齢者が冬の早朝にマラソンやジョギングをすることには反対です」
水泳中の突然死は、原因が溺れたことによる窒息死なのか、運動中の急性疾患なのかが判別しにくいとされるが、聖マリアンナ医科大学の武者春樹・教授(スポーツ医学)は、「スポーツ中の事故は総じて高齢者に多く、競技人口の比率で見れば高い」と指摘する。
※週刊ポスト2016年11月18日号