スポーツに「筋書き」はない。だからこそ、ある時は信じられない大逆転劇が観衆を沸き立たせ、ある時は予想だにしていなかった悲劇が起きる。ファンの脳裏に刻まれた数々の大逆転劇・大番狂わせ──。その瞬間、選手たちには何が起きていたのか。現場にいた当事者らの証言で“秘話”を掘り起こす。
2004年12月9日、NBA王者・サン・アントニオ・スパーズを本拠地に迎えたヒューストン・ロケッツは、残り1分で10点のビハインド。そこから、ロケッツのエース、T・マグレディによるNBA史に残る“独壇場”が始まった。
なんと1人で「33秒間に13得点」──超人揃いのNBAで、後にも先にもない大記録だ。ロケッツのボールになると、とにかくマグレディが3ポイントを打ち、それが落ちない。スパーズの2メートル11センチセンター、T・ダンカンにファウルを受けながら放り投げたボールまでもが、リングに吸い込まれる。「リングが、とても大きく見えたんだ」──本人はこの試合を後にそう振り返っている。
ちなみに、ロケッツの本拠地・トヨタセンターにはこの日、1万6000人が詰めかけていたが、試合終了時のスタンドに観客はまばら。勝ちを諦めた多くのファンが試合終了前に会場を後にし、歴史的瞬間を見逃したのだ。偉業を帰り道で知ったファンにとっては“悲劇”としても記憶されるゲームだ。
※週刊ポスト2016年11月18日号