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1991年のカープ 7.5ゲーム差を跳ね返したチーム内の合言葉

1991年の優勝メンバーの達川光男氏

 今シーズン、プロ野球を大いに盛り上げた広島カープが、前回優勝したのが1991年。その年のカープは、7.5ゲーム差を跳ね返してリーグ優勝に輝いた。その年のチームについて、当時、広島で捕手を務めていた達川光男氏が語る。

 * * *
 25年前のカープは、今年のチームとよく似ていたと思う。今季、4番に左打ちの松山竜平と右打ちの新井貴浩を併用したように、25年前も右投手なら左の西田真二、左投手なら右のアレンと使い分けていた。前田智徳、正田耕三、野村謙二郎と1~3番に足のある好打者がいたのも同じ。

 ただ、大砲不在で点が取れず、佐々岡真司、川口和久、北別府学の先発3本柱とストッパーの大野豊がフル回転してなんとか踏ん張っている状態だったから、今季のような独走はできなかった。GW終盤に9連勝して首位に立ったものの、投打が噛み合わず6月にはBクラス落ち。マスコミには「今年も“鯉のぼりの季節”まで」と叩かれた。

 そんなカープの逆転優勝の原動力となったのが、「炎のストッパー・津田恒実」の存在だった。開幕当初、首脳陣は津田と大野とのダブルストッパー構想で、しっかり逃げ切るゲームを増やそうとしていた。ところが、開幕直後の4月14日の登板を最後に、津田が体調不良で戦線離脱。チームに暗い影を落とし、GW以降の失速で7月には中日に最大7.5ゲーム差をつけられてしまった。

 そんなチームが一つにまとまったのは、夏場のミーティングで、それまで伏せられていた津田の本当の病名(脳腫瘍)が明かされてからだった。

 山本浩二監督が「恒(つね)を優勝旅行のハワイへ連れて行くぞ」と呼びかけ、それからは「恒のために勝とう」が合い言葉となった。9月、中日相手にナゴヤ球場で3連勝して2か月半ぶりに首位に返り咲いた後は、そのまま逃げ切った。後半戦は35勝23敗。チーム一丸となっての優勝だった。

 この年のカープは、力の落ちて来たベテランと伸び盛りの若手が混在し、チームがまとまりづらい“世代交代期”でもあった。しかもチーム本塁打わずか88本という大砲不在。結局、優勝旅行に一緒に行くことはできなかったが、間違いなく津田が背中を押してくれた奇跡の優勝だった。

 カープはその5年後、逆に巨人に11.5ゲーム差をひっくり返される“メークドラマ”の屈辱も味わった。勝ちを積み重ねるのは時間がかかるが、転げ落ちるのは早い。改めて野球は筋書きのないドラマと実感させられた。

※週刊ポスト2016年11月18日号

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