予想だにしなかった米大統領選勝利にショックを受けた日本の大メディアは、ドナルド・トランプ氏に「日本に害悪をもたらす危険人物」とレッテル貼りした報道に終始する。だが、本当にそうなのか。政治ジャーナリストの藤本順一氏はこう指摘する。
「過剰なまでにトランプショックが叫ばれていますが、『何を大騒ぎしているんだ』という印象です。官邸はトランプ氏に冷静な祝福コメントを出しましたが、実際、全く焦ってなどいません。現にトランプ氏は、選挙中のような過激発言を封印し、現実路線にシフトし始めている。
中曽根康弘・元首相と『ロン-ヤス』と呼び合う関係を築いたロナルド・レーガン氏、小泉純一郎・元首相との盟友関係で知られるジョージ・ブッシュJr.氏など、日米関係が強化されたのは共和党大統領の時代です。
トランプ氏はあくまで共和党選出の大統領であり、新政権の人事も共和党のシンクタンクが主導しているため、日米同盟重視の伝統を引き継ぐはずです。一方、民主党政権は日本より中国に比重を置く傾向が強く、とりわけヒラリー氏は親中派と目されてきた。米国から対中強硬派と見られる安倍晋三首相とはぶつかる可能性が高かった」
さらに、トランプ氏の思想やキャラクターも、安倍首相と親和性が高いと見る。
「オバマ氏やヒラリー氏は『人権』や『環境』といった建前の理念を語りますが、いまやそうした“上品な”考え方は完全に行き詰まり、自国の利益を最優先する政治家こそがリーダーとして成功しているのが現実です。ロシアのプーチン大統領と安倍首相はその代表で、2人のウマが合うのは、お互いが自国の利益に立脚して、『これをやるからそれをくれ』といった分かりやすく“下品な”やり取りができるからです。
トランプ氏もその系譜にあるため、プーチン大統領はトランプ氏を評価しているし、安倍首相とも波長が合うはず。安倍官邸も早速、日米ロの極東共同開発などにトランプ氏を巻き込もうとしているようです」(同前)
トランプ氏に会うべく渡米した亀井静香・衆院議員も同意見だ。
「今までの日本は気付いたらアメリカの言いなり、ということがずっと続いてきた。が、トランプ氏は自己の利益をはっきりと口に出す。それに対して日本も、主張すべきところは主張すればよい。交渉相手としては、今までの大統領よりは日本にとってやりやすいと思う。お互いに手練手管でやるようなタイプではないので、安倍首相とも相性は意外に良いんじゃないか」
安倍首相と「ドン-シン」(ドナルドとシンゾウ)と呼び合う日も近いか。
※週刊ポスト2016年11月25日号