〈2012年に飲酒が原因の新規がん患者70万人、死者数約36万6000人〉──。世界の酒飲みを震撼させる衝撃の数字が、11月2日、フランス・パリで開かれた「世界がん会議」で発表された。
世界保健機関(WHO)の専門機関である国際がん研究機関(IARC)は、アルコールを最も発がんリスクの高い「グループ1」に分類。アルコールはアスベストやダイオキシンなどと並ぶ〈発がん性を示す十分な証拠〉がある物質と認定された。
がんが誘発されるのは、アルコールが肝臓で分解されるとアセトアルデヒドという発がん性物質がつくられるためだ。人間は、このアセトアルデヒドを無害な酢酸に分解する酵素を持つが、日本人の44%はこの酵素の働きが遺伝的に不完全なのだという。
呑兵衛にとっては「わかっちゃいたけどショッキング」なニュース。だが、パリ会議の数字は「酒が体に有毒だと証明したわけではない」と話すのは、慶応大学看護医療学部教授の加藤眞三氏である。
「食道がんや大腸がんの発症と飲酒に相関関係があるのは事実ですが、適切な飲み方をすれば、アルコール摂取は血液中の善玉コレステロールを増やして動脈硬化の進行を防ぎ、心筋梗塞や脳梗塞、糖尿病の予防にも繋がります」
実際、海外では酒の効用が次々と報告されている。米国ボストン在住の内科医・大西睦子氏が話す。
「“シャンパンが認知症予防に効果がある”との研究が現在、英レディング大学で進められています。シャンパンに含まれるフェノール化合物が脳の海馬と皮質から出される信号を調整して、記憶力など認知機能を向上させることがラットを使った実験で証明されています」
メキシコでは「テキーラが骨粗鬆症の予防や改善に効果がある」とする研究が行なわれているという。
「テキーラの原料となるアガベ・テキラーナに含まれるフルクタンという成分が骨の健康維持に繋がる可能性を、メキシコ国立工科大学高等研究所のチームが突き止めています」(同前)
最新の研究では、酒が毒にも薬にもなることを証明している。問題は「正しい飲酒」ができているかどうかなのである。
※週刊ポスト2016年11月25日号