北方領土返還交渉が進んでいる。日本は対ロシアとの関係ばかりに注目しがちだが、ロシア側は、この交渉を通して極東地域における中国の影響力を牽制したい狙いもある。ジャーナリストの櫻井よしこ氏は、日本とロシアが平和条約を結んでも、ロシアと中国との関係が大きく変えられるわけではないと指摘する。
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日ロ交渉の成果は蓋を開けてみなければわかりませんが、仮に日ロが平和条約を締結すれば、両国のみならず極東アジアに大きな変化をもたらします。
日本にとっては北方領土の返還によってEEZ(排他的経済水域)が拡大することに加え、天然ガスの供給元が増え、さらに中国を牽制するうえで「日ロ関係」というカードを持つことになると、希望を語る人たちは少なくありません。
一方、ロシアにとっても日本の経済協力はなくてはならないものであり、それは同時に中国を牽制するための有効なカードになり得るという主張も盛んです。
そのような見方は、ロシアと中国はアメリカに対して共同歩調をとり、蜜月関係を築いているように見えますが、ロシアが中国に対し並々ならぬ警戒心を持っている事実からも生まれています。
特に強い危機感を抱いているのが、極東地域における「人口力」の圧倒的な差でしょう。ロシアの国土面積は日本の約45倍ですが、3分の2がウラル山脈から東の「シベリア」であり、そのうち極東地域だけでロシア全体の36%を占めます。日本の国土の16倍強に及ぶこの広大な地域に住むロシア人はわずか600万人あまりで、しかも人口は減り続けています。
かたや極東地域と国境を接する中国東北3省の人口は1億人を超え、ロシアに移住してビジネスを展開する中国人の数は増え続けています。たとえ領有権がロシアにあっても、このままでは極東地域にロシアのコントロールが及ばなくなり、専門家は人口力で中国に支配されると予測しています。