女性セブンの名物アラ還記者“オバ記者”こと野原広子が、世の中に怒りをぶちまける! 今回のテーマは「がん告知」です。
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「胃がんですね。これが胃の入り口にできた大きな腫瘍でこっちの小さいのは…」。つい先日、82才の父の告知に同席したときのこと。
30代の若い医師は映像を動かしながら、抗がん剤や放射線治療をしたらどうなるか、こんせつていねいに説明したあと、「ステージは2。全摘すれば、再発率は15%」と手術をすすめたの。
ズシンと重たい荷物を持たされたような気持ちになるのは、ことがことだけに仕方がない。だけどだんだん、この告知ってほんとに意味があるのか、考えさせられたのよ。
◆一度も健康診断をしたことのない高齢者は…
話は今年の7月にさかのぼる。茨城から野菜を車に積んで上京してきた父が、「なんだかノドに食べものがつかえる」と、薄い胸を叩きながら言うから、「そら、食道がんだな。早く病院に行ったほうがいいよ」と私。
父は一度も健康診断をしたことがない。体の仕組みには興味がないし、がんの知識はほぼゼロ。ちょっとやそっとじゃ病院に行くとは思えないから、よかれと思って「がん」と脅したわけ。
それが効きすぎたのよね。今回、病院に行ったのも、食べ物がノドにつまって七転八倒したからで、そうでなければ悪化しても病院には足を向けなかったはず。
診察室を出てからは、「手術はしねえぞ。手術した人、みんな死んでいるから」と脅えきっている。その様子を見て、私も、なんとしても手術台に乗るように説得しようとした気持ちが、どんどん小さくなっていったんだわ。
◆「適当なことを言って」と医者に頼んでおけば…
確かに全摘すれば、胃は完治すると言うけれど、「どのくらいリンパに飛んでいるか、手術してみないとわかりません」とも言う。それを、高齢の父はどう解釈するか。
「切ってもダメなものはダメ。いいんだよ、死ぬのは一回だ」と開き直ったかと思えば、体をくの字にしたまま、黙り込んだり──。
私の不用意な「食道がん」発言で不安定になった精神状態を、医者の告知が追い打ちをかけたとしか思えない。それで今は手術どころか、治療したって仕方がないという方向に向かっている。
正直、私もずっとインフォームド・コンセントを好意的にとらえていたんだよね。医師と患者が対等に情報を共有するのはフェア。患者も後悔しないんじゃないか、と。でも、実際はどうなんだろう。
聞けば、インフォームド~は、訴訟を起こされた医師が敗訴しないよう、患者の同意を得んがために、治療内容や薬の説明をくどいほど伝える、アメリカで生まれた考え方だ。
ひとり暮らしの私はそれを受け入れるけど、父のように田舎の無知な高齢者に同じことをして何の効果がある?
「前もって適当なことを言ってくれって、医者に頼んでおけばよかったかなぁ」
そんなこと無理とわかっているけど、望まないではいられないんだよね。
※女性セブン2016年11月24日号