米国大統領選の翌日、日本の国会では与党の強行採決でTPP(環太平洋経済連携協定)を批准した。日本のコメ、小麦、牛肉・豚肉など9012品目の関税を引き下げて貿易障壁を撤廃することを取り決めた協定だ。
しかし、大統領選に勝利したドナルド・トランプ氏は選挙中から「大統領になれば就任初日にTPPを離脱する」と反対を表明しており、日本が批准したのはトランプ氏の勝利によって“協定の失効”が見えたタイミングだったから、与野党の対決も、強行採決も茶番劇である。政治評論家の有馬晴海氏は「日本の政治家はトランプに救われた」とこう語る。
「自民党議員の多くは農協と関係が深く、本音ではTPPに反対でした。だが、安倍晋三・首相はオバマ大統領の広島訪問などで米国に借りがあったから、なんとか批准しようと農協改革まで行なって反対論を封じ込める力の入れようでした。党内も首相に反する言動を取れば出世できないから従うしかない。そこに反対派のトランプ氏が勝ったことで“よし、これはどうせ発効しない”と安心して強行採決できたわけです」
トランプ氏に救われたのは自民党の政治家だけではない。相沢幸悦・埼玉学園大学経済経営学部教授は「日本経済」がグローバル化の荒波から逃れたという。
「日本のような輸出経済の国にとって自由貿易を進めるTPPはプラスで、保護主義的な流れは好ましくないという意見が国内では多数派です。しかし、それは正しくはありません。
日本の貿易依存度(GDPにおける輸出総額の比率)は15%程度しかなく、ドイツや韓国の約40%、中国、ロシア、イタリアなどの25%前後と比べても低い。実は、日本は輸出立国ではなく、米国のように個人消費が経済を支えている内需国なのです。だから経済のグローバル化を進める必要性は高くない。トランプ氏がTPPを拒否してグローバリズムにストップをかけたのは日本の経済にとってプラスの方が大きい」
漫画家の小林よしのり氏も「米国の選択」をこう評価する。
「米国が進めてきたグローバリズムは富裕層だけが徹底的に儲かる仕組みです。その結果、社会の格差が広がってニューヨークも若者のホームレスがあふれかえっている。
トランプ氏を勝たせたのはグローバリズムで貧困に陥って、自分たちの暮らしをなんとかしてくれる政治家じゃないとダメだと切羽詰まっている人々。これによってグローバリズムは終焉を迎えるし、日本も米国の富裕層に搾取される構造からようやく脱却できるのではないか」
※週刊ポスト2016年11月25日号