「来年の今月今夜、この月を僕の涙で曇らせてみせる」舞台やドラマでお馴染みのこのセリフ。言わずと知れた『金色夜叉』の名シーンだ。作品の舞台である静岡県熱海市の海岸にはその場面を再現した主人公・貫一と許嫁だったお宮の銅像があり、観光名所となっている。最近、この銅像に異変が起きた。フリーライターの清水典之氏が報告する。
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観光地・熱海を象徴する存在とも言える貫一お宮の像に、今年3月、1枚の金属プレートが設置された。この縦10cm×横40cmという、小さなプレートが物議を醸している。
そこには日本語と英語で、「物語を忠実に再現したもので、決して暴力を肯定したり助長するものではありません」と書かれている。貫一がお宮を足蹴にするシーンを銅像で再現したことについて、“弁解”しているのだ。
それが『金色夜叉』の名場面(*)と知る者からすれば、違和感を持つのが普通である。30年以上前(1985年)に建立された像に、なぜ今さらこんな弁解が必要になったのか。
【*『金色夜叉』の主人公・間貫一は貧乏学生だった。許嫁だった鴫沢宮(お宮)はある時、大富豪に見初められ貫一と別れることに。お宮の旅先である熱海まで追いかけ、問い詰める貫一。貫一は、「来年の今月今夜、この月を僕の涙で曇らせてみせる」「月が曇ったなら、何処かでお前を恨んで、今夜のように泣いていると思ってくれ」と言い、許しを請うお宮を足蹴にして去る。物語の山場であるその場面を再現したのが「貫一お宮の像」である。】
今年9月2日放送の「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)がこの問題を取り上げた。番組では、熱海市が東京五輪を見据え、外国人観光客に女性蔑視と受け取られないよう、理解を求めるために設置したと説明。
それに対し、出演者の一人でコメンテーターの玉川徹氏は、「『日本も100年前は男性がこうやって女性に暴力を振るうような国でした』って入れればいいんじゃないですか」と語った。さらに、日本在住54年のC・W・ニコル氏のコメントとして、「男性が女性を蹴ることは許せない。たとえ、文学作品の一部だとしても許せない。撤去したほうがいい」という、極端とも思える意見も伝えていた。
しかし、こうした意見を受け入れると、スペイン内戦を描いたピカソの「ゲルニカ」を展示するには、「この作品は戦争を助長するものではありません。昔はこうして殺し合うのが当たり前でした」などという注釈が必要になる。女性が殺人の被害者になるようなテレビドラマも、女性への虐待を助長するとして、放送禁止である。