3人寄れば、文殊の知恵ならぬお墓の不安に頭を抱える──。今、中高年以上の人たちにとって大きな悩みとなっているのがお墓をどうするか、ということだ。超高齢化社会が進み、これから多死社会を迎える。お墓の必要性は増してくるはずだが、実際には代々のお墓を引き継ぐことの困難さと、すでに無縁化した数多のお墓が社会問題になっている。これからのお墓はどうあるべきか、どうすればいいのかについて今一度、考えていきたい。ノンフィクションライター・井上理津子氏がレポートする。
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◆この墓所のご縁者様は霊園事務所に
秋晴れの週末、都立青山霊園と都立雑司ケ谷霊園に行った。六本木ヒルズを遠景に、芝生が広がる青山霊園。クスノキの大木が枝を広げ、雑木林のような雑司ケ谷や霊園。どちらもお墓がずらりと並ぶ。
青山霊園にはピンクのコスモスの大きな花束を手向け、歓談している2世代家族がいた。雑司ケ谷霊園には線香をあげ、ひとりお経を詠む女性の姿もあった。にぎやかな、あるいは粛々としたお墓参りの光景だ。
墓石の刻字が「慶応二年」「享保四年」などと建立100年を超えるお墓がある一方で、新しそうなお墓も散見する。石を積み重ねた従来型の「○□家の墓」が多いが、長方形の石に「和」「平和」「心」「ありがとう」などと書く洋型のお墓もぽつりぽつりと目にとまる。
大久保利通、国木田独歩(青山霊園)、夏目漱石、竹久夢二(雑司ケ谷霊園)らが眠るお墓にも出合う。著名人のお墓を巡り歩く人を「墓マイラー」と呼ぶそうだが、雑司ケ谷霊園で言葉を交わした菊川未希さん(35才、台東区在住)も墓マイラー。「村山槐多(かいた)のお墓を見にきた」そうだ。
「槐多って、大正8年に22才で死んじゃった画家兼詩人ですが、絵も詩も直情的なすごい人なんですよ。死ぬ間際にふられた女の人たちの名前を叫んだ…」
菊川さんについて行った先にあったのは、墓石らしからぬずんぐりした石。菊川さんは「槐多らしい! すてき」。手を合わせてから、スケッチを始めた。
彼女が墓地をちっとも怖がっていない様子に、うれしくなった。ひとりに戻って、さまざまな時代のさまざまな人が眠る場だと思いながら行きつ戻りつしたが、改めて周囲を見回し「あら?」と思った。
セイタカアワダチソウやススキが生い茂った草ぼうぼうのお墓や、空き地になった区画が目についたからだ。草ぼうぼうのお墓には「この墓所のご縁者様は…霊園事務所にお立ち寄りください」と書いた札が立っているものもある。長くお参りの人が来ていないお墓なんだろう。公益財団法人東京都公園協会霊園課に問い合わせた。