突出した実績馬が見当たらないレースは、混戦が予想される。こんなときことモノをいうのが鞍上の技術である。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」から、馬と騎手の相性についての第2弾、馬に嫌われる人々についてお届けする。
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前回は馬と騎手との相性の話でしたが、今回は調教師が加わります。
競馬の主役は紛れもなく競走馬です。しかし直線でファンが連呼するのはジョッキー名だし、勝利インタビューでレースを振り返るのもジョッキーです。反面、凡走に終わったときのファンの激しい呪咀もジョッキーに向けられます。実は、ジョッキーは馬に好かれない。いわば憎まれ役です。
馬にとって競馬場はストレスを感じる場所。そこに登場するカラフルないでたちの人がレースで激しく追って鞭を振るう、馬にとって怖い存在です。ジョッキーは馬に嫌われてこそ。精一杯に追って、馬の能力を最大限に引き出してもらわなくてはいけません。いきおい、リーディング上位のジョッキーに騎乗依頼することが多くなります。
だから角居厩舎では、若いジョッキーを育てる意識はやや希薄です。“馬に嫌われる”までになるには最低3年。素質馬を多く預からせていただいているので、新馬戦からきっちり馬に競馬を教えてくれるジョッキーに手綱を託すことになります。
腕を信じているから、あまりジョッキーへの指示はしません。馬をどう走らせるか。そういった作戦は調教師と調教助手で立てます。レースではなく調教での作業です。いかに前走より上積みを作るか。さらに操作性を高めるか。紙を重ねるように仕上げていきます。
ただし、よっぽど結果が出ていない馬ならば、ジョッキーに頼むこともある。「思い切って一番後から行って」とか、「ブリンカーを付けるから、前に行って反応を確かめて」とか。それを試してくれるところもジョッキーの手腕です。