相次ぐ高齢ドライバーによる交通事故はあまりに痛ましいものばかりだ。11月12日、東京・立川市の国立病院機構災害医療センター敷地内の駐車場で83歳女性が運転する乗用車が急発進。精算機のバーを折り、数十センチの植え込みを乗り越え、その先の歩道を歩いていた男女2人をはねてようやく止まった。2人はその後、搬送先の病院で死亡した。
「女性は『ブレーキを踏んだが止まらなかった』と供述していますが、ブレーキ痕はなく、アクセルとブレーキを踏み間違えて急加速したとみられています。入院中の夫の看病のための病院通いで、運転には不慣れだったようです」(社会部記者)
今年10月28日には、横浜市で87歳男性の軽トラックが小学生の集団登校の列に突っ込み、小学1年生の男児1人が犠牲となる事故が起こった。ドライバーは認知症の発症を疑われている。
ちょうど1年前の同じ日、宮崎市で73歳の男性の運転する軽自動車が歩道上を約700メートル暴走。歩行中の男女6人をはね飛ばし、女性2人が死亡した事故も起きている。この男性は認知症治療を受けており、事件の直後、「いまどこにいるのかわからない」と話していたという(現在公判中)。
認知症の高齢ドライバーによる事故の場合、加害者側に悪意も「事故を起こした」という自覚もないケースがあり、被害者や遺族はやり場のない怒りや悲しみに苛まれる。もちろん、加害者となった老人やその家族にも、賠償など大きな負担がのしかかる可能性がある。このような不幸な事態を引き起こさないためにも、事故を未然に防ぐ対策は急務だ。
そうしたなかで政府や自治体、警察が推し進めているのが65歳以上の高齢者の運転免許「自主返納」である。メディアもこれを連日取り上げている。産経新聞は社説でこう書いた。
〈認知症に限ることなく、免許更新時に運転適応能力を診断する機会は必要であり、これに応じた免許の強制返納も検討すべきだろう〉(11月15日付)
朝日新聞は同日付夕刊で「97歳上人、返納決断」と見出しを打ち、「100歳までは免許を持っていたい」と思っていた神奈川県藤沢市の寺の住職が、横浜市の事故を受けて考えを変え、免許を返納したニュースを報じた。これは『ミヤネ屋』(日本テレビ系)など情報番組でも取り上げられた。
警察と自治体も各地で協力して65歳以上の高齢ドライバーに「免許返納」を促す取り組みを積極的に進めている。
※週刊ポスト2016年12月2日号