事前の下馬評では、ほとんどのメディアが勝利だとみていたヒラリー・クリントン氏は、なぜ米大統領選でドナルド・トランプ氏に敗れたのか。経営コンサルタントの大前研一氏が、その敗因として考えられる4つの致命傷について解説する。
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ヒラリー氏の敗因は大きく四つある。まず、副大統領候補選びの間違いだ。
民主党の予備選挙で最後まで競り合った「民主社会主義者」のバーニー・サンダース氏を指名しておけば、おそらく圧勝していたと思う。なぜなら、予備選挙でサンダース氏がヒラリー氏に勝った州の大半は、大統領選挙ではトランプ氏がヒラリー氏に勝ったからである。つまり、サンダース票の多くが同じ民主党のヒラリー氏ではなく、共和党のトランプ氏に流れたと考えられるのだ。
二つ目は、夫ビル・クリントン氏の存在である。「ヒラリーはともかくホワイトハウスで不倫したビルが再びあの建物に入るのは許せない」という強い拒絶反応を示した女性が、実は意外に多かった。トランプ氏も女性蔑視問題で騒がれたが、女性たちは「ビルよりはまし」と思ったわけである。
三つ目は、エリート臭をふりまきながら偉そうな顔をしてインテリジェンスをひけらかすヒラリー氏本人に対する女性たちの嫌悪感だ。これは理屈ではなく本能的なものであり、この弱点をヒラリー氏は最後まで克服できなかった。女性の4割以上がトランプ氏に投票したという事実が、それを雄弁に物語っている。
四つ目は、伝統的な政治家であるがゆえにTPPに関する発言が変わったことだ。
TPPはオバマ大統領が命がけで取り組んだ政治課題の一つであり、その応援も受けていたにもかかわらず、トランプ氏がTPP破棄を主張したら、途中で反対に転向した。これはオバマ大統領に後足で砂をかけるような所業であり、インクルーシブ(包括的)すぎるので、「ヒラリーはアメリカ初の女性大統領になりたいだけではないか?」と見られ、致命傷の一つになったと私は考えている。
要は、トランプ氏の勝因よりもヒラリー氏の敗因のほうが多すぎたわけである。ヒラリー氏は自身の私用メール問題に関するFBI(連邦捜査局)の捜査再開決定が敗因だったという見方を示したが、これは大した影響はなかったと思う。
※週刊ポスト2016年12月2日号