ドナルド・トランプ氏がアメリカの大統領選挙に勝利し、今後の世界の政治経済に大きな混乱が生じるのではとの見方もあった。だが、その後のトランプ氏の言動は現実的で穏健ともいえるものだった。過激とも言える選挙中の政策について前言撤回や修正を図っている。
◆「オバマケア(低所得者向けの医療保険制度)は完全に撤回する」→「現行法を修正し、一部を引き継ぐ」
◆「日本と韓国の核武装」→「そんなことはいっていない」
◆「メキシコ国境に壁をつくり、費用はメキシコに払わせる」→「フェンスも使われる可能性がある
国境の“壁”は万里の長城のような巨大な建造物をイメージした人も多かったが、フタを開けてみればいわゆる国境警備の域を出ない話になりそうだ。
さらに対立候補だったヒラリー氏の私用メール問題追及もトーンダウン。選挙中は「大統領になったら特別検察官を任命して捜査させる」と意気込んでいたが、いまや「ヒラリーは非常に賢く、賢明。傷つけたくない」とかばう“大人の対応”を見せた。
米国政治の研究で知られる中岡望・東洋英和女学院大学大学院客員教授の見方である。
「トランプ氏は『いい意味でも悪い意味でも、メディアで話題になることが大事だ』と語っていて、選挙中はかなり計算ずくで暴言を吐いていた。だからそれを鵜呑みにして大統領になったら過激な政策をやるだろうと考えるのが間違っている。
しかも、冷静に政策を読み返せば滅茶苦茶でないものも多く、ワシントンの腐敗をなくす、ホワイトハウスの職員は退職後5年間、ロビイストになるのを禁止するなど、かなりの部分で既存の政治に対する不満をきちんと汲み上げるものでした」
最初のイメージが悪いほど、現実路線に転じた時に好感度は大きくアップするわけだ。
※週刊ポスト2016年12月2日号