バブル前の1988年に発売されて、今なおベストセラーであり続ける驚異の書籍がある。お茶の水女子大学名誉教授の外山滋比古氏による『思考の整理学』(ちくま文庫)だ。111刷211万部を達成している。中高年サラリーマンから東大、京大の学生にまで、読まれ続ける理由はどこにあるのか。そんな同書のエッセンスを紹介しよう。
外山氏が徹底してこだわるのは、「自分の頭で考える力」の育成だ。
外山氏は、人間を自力で飛び上がることのできない「グライダー型」と、自力で飛行できるエンジンを備える「飛行機型」に大別する。これまで日本の学校は、教師が手取り足取り生徒に知識を詰め込むばかりで、生徒が自分の頭で考える訓練を疎かにしていた。その結果、他人に引っ張られて飛ぶ「グライダー型」ばかりになり、自分の力で飛べる「飛行機型」は育たなかったと外山氏はいう。
「僕が本に書いたのは、“墜落してもいいから飛行機になれ”ということです。グライダー型人間はモノマネが得意だけれど、新しい事態や時代の変化に対応できません。しかも現在は30年前よりはるかに時代が進み、学校で学んだ知識がより通用しなくなった。
人工知能(AI)やITなどが発達した今こそ、他人に引っ張ってもらって飛ぶグライダー型人間ではなく、自力で自分のめざす場所まで飛べる飛行機型人間が求められています」
「自力で飛ぶ」とは、「自分の頭で考える」ことである。意外にも外山氏は、「そのために知識や記憶力は必要ない」と指摘する。
「日本の教育は知識を詰め込み、忘れないことを求めるけど、それは大間違いです。知識や記憶が豊富だとつい頼ってしまい、自分の頭で考えることが少なくなります。知識や記憶があるがゆえ、それにとらわれてしまい、自分で飛ぶことができなくなるんです」
自分の頭で考えるため肝心なことは、むしろ「忘れる」ことだと外山氏は語る。