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高知の戻り鰹 船上で味わう極上の漁師メシ

カツオの一本釣り漁に密着

 高知・土佐市の宇佐港、午前2時。室戸沖での鰹の一本釣り漁に向かう光丸の6人の漁師たちの姿がある。船長の岡本孝司さんが海鳴りのする方角を見ながら呟いた。

「昨日は大漁だったけど、今日は海が荒れているから厳しいかもしれないな」

 鰹の旬は年に2回。春、九州南部から黒潮に乗り、三陸沖まで北上する初鰹。10月下旬から12月末まで続く戻り鰹は、東北沖で親潮にぶつかり脂を蓄えて南下する。1.5キロ前後で身が赤く、さっぱりとした味の初鰹に対して、秋の戻り鰹の身は脂が乗ることでピンク色を帯び、コクのある味になる。

「戻り鰹は4キロ以上あるので、釣り上げるのが大変です。食いのいいときは釣っては投げての入れ食いで、15分もすると腕がパンパンになります」(光丸船員・森下将吏さん)

 鰹の一本釣りは「なぶら(魚群)」探しで始まる。未明に出航した船は、荒波をかき分け、彼方に群れを見つけるや全速力で向かい、船長の合図で餌投げが活餌の鰯を撒く。同時に水を海に撒いて鰯の群れに見立て、その中に「かえし」のない疑似餌針を投げ入れる。船先に並んだ釣り手の竿がしなり、銀色に輝く鰹が次々と宙を舞う。

 時間にして15分。鰹との壮絶な格闘は一瞬とも永遠とも思える長さだが、気がつけば甲板は鰹の放つ銀色の煌きで埋まる。眠気と疲労で倒れそうな漁師を癒やすのは、何といっても食事。

「毎日毎日、鰹ばっかりだけどね。美味いんだよ、これが」(岡本船長)

 光丸に乗り始めて6年目の濱口彰宏さんが手際よくさばいた鰹をガスバーナーで炙り、次々とタタキにしていく。塩焼きなどで食べるのが一般的なチチコ(心臓)やハランボ(トロ)は刺し身で並ぶ。どちらも鮮度がよくなければ口にできない珍味だけあって、船上ならではの贅沢といえる。

 この日は夕方6時過ぎに帰港、漁果は1トン弱だった。「今日はあんまりよくねぇなあ」という岡本船長だが、その顔は晴れやかだ。

「でもな、相手は自然だからね。こんな日もあるから大漁だと嬉しいんだ」

■撮影/佐藤敏和 ■取材・文/末並俊司

※週刊ポスト2016年12月2日号

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