山口組の分裂抗争をめぐる報道を見ていて気になるのが、ヤクザの行動原理である。無鉄砲にも見えるし、合理的にも見え、とかく一般人には理解し難い。だが、彼らのビジネスや恋愛の作法を見ると、そこにはヤクザ独特の行動原理があり、彼らなりの一貫性があることが分かってくる。
元「週刊実話」編集長の下村勝二氏が上梓した『山口組式最強心理戦術 山口組のレジェンドたちが教えるビジネス・恋愛テクニック』は、その手助けとなる一冊だ。下村氏は、1984年の山一抗争(*)から30年、実話誌でヤクザ担当を務めて、実話誌の全盛時代を支えた人物だ。
【*竹中正久・四代目組長の襲名に反発して離脱した一和会と山口組との抗争。暴力団関係者25人が死亡した】
「ヤクザはケンカが強いだけでは務まらず、出世する大物は心理戦が得意です。『攻め役』と『なだめ役』に分かれ、相手の心が揺らいだところで自分に有利な落とし所を作る。そんなヤクザ独自の脅しも代表的な例です。ヤクザの争い事は、多数派工作や情報戦など心理的な駆け引きがある。ビジネスや恋愛にもそれを応用するため、それらを見ればヤクザの行動原理が多少は理解できるのではないでしょうか」(下村氏、以下同)
ヤクザ特有の心理術は、恋愛からも見て取れる。
山口組きっての武闘派として知られた柳川次郎・初代柳川組組長は、殴り込みをする際の決断はすべて「3分以内」だったとされる。これは「女の口説き方」にも共通していたという。
〈「君と出会ったときから忘れられない。女は一生、あんただけでいい。そもそもあなたの○○が好きだ」としっかりと3分で伝えきる〉(同書より)
これぞ、ヤクザ流の口説き方だと、下村氏は言う。
「その場で覚悟を見せるのがヤクザのやり方。竹中正久・四代目組長は、『誰を殺してほしいねん。言うてみい』という伝説の口説き文句がありました。『おまえのためなら刑務所に行くことさえ厭わない』という覚悟を見せるわけです」
出会いは豪快だが、意外にもその後の関係は繊細だ。