全国で1010万人が罹患する国民病「高血圧」に日々向き合い、最先端に切り込んでいる雑誌があった。雑誌・月刊『血圧』(先端医学社刊)は毎月1日発売で、定価は2160円。研究者や医療関係者、医療関係メーカー向けの雑誌だ。
その内容は多岐にわたり、お堅いイメージの専門誌とは一線を画すもの。高血圧治療の最新動向はもちろん、生活に密着した特集まで幅広く扱っている。医療ジャーナリストの小林佳代氏が評する。
「患者数が多いにもかかわらず、高血圧のメカニズムはいまだはっきりと解明されていません。この雑誌は、私たちの身近に潜む高血圧と関係しそうなあらゆるリスクを取り上げ、検証しているところが興味深い。日本一血圧に敏感な雑誌といっても過言ではないかもしれません」
たとえば、〈冬の室温と外気温のどちらが血圧と強く関係するか?〉(2015年4月号)という記事がある。高齢者は急に寒い屋外へ出た途端に血圧が上がり、最悪の場合ポックリ……というイメージがあるが、事実はそうではないという。
同記事では、平均年齢72.1歳の男女880人を対象に分析したところ「室外温度と血圧の上昇は関係ない一方で、室内温度が1度低下すると日中の収縮期(上)の血圧は0.22mmHg上昇する」という調査を紹介し、〈高齢者の冬の実生活において、室温は外気温より強く血圧に関連する〉と結論付けている。つまり、外出時に厚着するよりも、室内の温度を上げたほうが高血圧予防に効果的なのだ。
近年の環境問題と血圧の関連を論じることもある。〈PM2.5と血圧〉(2015年5月号)という記事では、一見して何も関係ないように思える血圧とPM2.5(※注)について言及している。
【※注/直径2.5マイクロメートル以下の微細な粒子のこと。吸い込むと様々な健康被害を引き起こす】
同記事の執筆者が1948年から2013年までに発表されたPM2.5に関する文献を分析したところ、PM2.5が10ug/立方m増加すると、上の血圧が1.393mmHg上昇するという。10ug/立方mといえば、中国からPM2.5が飛来する西日本でたびたび観測される数字。西日本のほうが、PM2.5の影響の少ない東日本に比べて血圧が上昇しやすいということを意味しているのだろう。
血圧や不整脈など循環器を専門分野とする秋津医院の秋津壽男院長が語る。
「PM2.5と血圧上昇の因果関係については諸説あって、現在も研究が進んでいる。この記事の結論は必ずしも決定的な説とはいえませんが、こういった新説で活発な議論を起こすのは良いことでしょう」
※週刊ポスト2016年12月9日号