ひとたび高血圧と診断されれば、医師から薦められる降圧剤。さまざまな副作用が報告されているが、インポテンツ(ED)を引き起こす可能性があるほか、脳梗塞に至るケースもある。
そもそも、降圧剤を飲むべきとされる「高血圧患者」の概念すら揺らいでいる現状がある。東海大学医学部名誉教授で大櫛医学情報研究所の大櫛陽一所長が解説する。
「厚労省の特定健診では上の血圧で130mmHg以上、下で85mmHg以上を『保健指導』としており、上が140mmHg以上、下が90mmHg以上を『要受診』と定めています。
しかし、2004年に私たちが全国の健診機関から集めた70万人分の健診結果を分析したところ、65~69歳では上が165mmHg以下、下が100mmHg以下であれば、健康に問題がないという結果が出た。より病気のリスクを下げるための『目標値』でも、上が143mmHg以下、下が86mmHg以下でいい。厚労省が定める血圧値は厳しすぎます」
さらに日本人間ドック学会も2014年4月に新しい血圧の基準値として「上が147mmHg以下、下が94mmHg以下なら問題ない」と発表している。
「30歳から80歳の男女で、上の血圧が130mmHg以上の人は全体の約30%で、147mmHg以上の人は約8%です。つまり、日本人間ドック学会が示した数値に照らせば全体で約22%もの人々が“高血圧ではなくなる”のです。高齢者で上が165mmHg以下でいいのなら、さらに該当者は増えます」(同前)
なぜ厚生労働省は厳しい基準値を変えないのか。
「これには利権の問題が絡んでくる。基準値を緩めて高血圧と診断される人が減れば、降圧剤の消費量が減ることに直結する。医療・製薬業界が血圧の基準を厳しくしたがるのはそのためです」(同前)
また現場の医師たちの保身も大きい。患者が一度、降圧剤を始めて血圧が安定すれば、医師が途中で服用の中止を指示することはほとんどない。
『その「1錠」が脳をダメにする』の著者で薬剤師の宇多川久美子氏が解説する。
「降圧剤の効果は短いもので24時間といわれている。あくまで対症療法でしかないので、いくら長期に服用しても高血圧が治ることはありません。
服用をやめてしまえば再び高血圧を引き起こし、合併症として脳梗塞や心不全を起こす可能性もある。それを恐れる医師は患者を降圧剤漬けにするのです」
ひとたび降圧剤を始めれば、“進むも地獄、退くも地獄”というわけだ。
※週刊ポスト2016年12月9日号