築地市場移転問題は長期化する──小池百合子・都知事が豊洲への移転時期を「早くても来冬」と明らかにすると、メディアの大騒ぎは「豊洲の地下水」から「業者への補償」というカネの問題にシフトした。
だが、移転論議の原点である「食の安全」に関する視点がすっぽりと抜け落ちてはいないか。
本誌・週刊ポスト11月18日号は、築地市場の活魚水槽に注がれるろ過海水から飲用水基準の1.6倍の発がん性物質「トリハロメタン」が検出されていた事実を明らかにした。「豊洲のリスク」に偏重する「食の安全」論議には「現在の築地のリスク」の話が抜け落ちがちだ。
問題の一つが、築地周辺にドブネズミが生息し、建物内にも出没することだ。それらを介した感染症が毎年のように把握されている。所管する中央区保健所が回答する。
「ドブネズミの尿でうつるレプトスピラ感染症の把握件数は、2015年に2件、今年も2月に2件届け出がありました。うち1件の感染者は1か月ほど入院したと聞いている」
どのような感染症か。国立感染症研究所の小泉信夫・主任研究官が解説する。
「ねずみの腎臓に生息する細菌によって引き起こされる感染症で、その尿で汚染された水や土に触れた人に感染することがある」
熱や頭痛など風邪のような初期症状に始まり、「重症化すると急性腎不全を起こす。死亡例もある」(同前)という。食材を扱う場だけに、様々なリスクが懸念される。
巨額の公金を使った事業である以上、“本当に豊洲に移転していいのか”の議論を尽くすことに意味はある。ただし、その際には現在の築地のリスクも広く公開・周知しなければ“都民ファースト”の判断などできないのではないか。
※週刊ポスト2016年12月9日号