よく「高齢者はがんの進行が遅い」と耳にするが、実際にはどうなのだろう。横浜悠愛クリニック理事長の志賀貢医師の話。
「進行が遅いのは間違いない。胃がんから肝臓に転移するとか、肺に転移するということが少なくなります。患者が若いと別の部位に飛び移る力が強いのに、年齢が高くなるとその力が衰える」
がんに伴う疼痛も、高齢になると薄らいでいくという。在宅医療を実践する長尾クリニック院長・長尾和宏氏がいう。
「若い末期がん患者は痛みが強いため、ほぼ全員がモルヒネなどの医療用麻薬を要します。
しかし80~90代以上の超高齢者になると、3~4割は医療用麻薬を使わなくても在宅で看取ることができます。高齢になるほどに痛みに対して鈍感になっていくのではないでしょうか」
家族の負担も少なくなると長尾医師が続ける。
「がん死は壮絶だという印象があるかもしれませんが、超高齢者になると、平穏に死を迎えられる。最後まで自宅で食事をして、老衰のように穏やかに亡くなることができるのが高齢者のがんなのです」
前出の志賀医師が振り返る。
「ある80代半ばの患者さんが胃がんであることが分かりました。その方は達観しており、自然に任せると決め、一切治療を受けませんでした。
3年間元気に暮らしたのち、最後は胸に転移しましたが、家族に見守られて苦しむことなく眠るように亡くなりました。このように、放置してもなかなか進まないのが高齢者のがんなのです」
※週刊ポスト2016年12月9日号