10月のとある金曜の夜、21時すぎ。『キサナドゥ』(東京・麻布十番)は、異様な熱気に包まれていた。メーンフロアには30人ほどの男女がソウルミュージックに合わせ、対面で同じステップを踏む“ペアダンス”に興じ、VIP席には真っ黒に日焼けした業界人風の男性がシャンパンを開け、知り合いの女性が来るたびにハイタッチやハグを繰り返す。まるでバブル時代に紛れ込んだような光景…。
よくよく見れば、メーン客層は50代オーバー。クレリックシャツにパールのネックレス、スキニーデニムを合わせた黒木瞳似の女性(52才・主婦)や、仕立ての良い三つ揃えのスーツを着たシルバーグレーの男性(56才・役員)など、品の良さが目に留まる。そして踊りまくる人がいる半面、フロア中央には大きな止まり木があり、すぐに休む人も少なくない。やがて0時を回る前、終電を前に多くの人が足早に帰っていった。まるで潮が引くように…。
そもそも『キサナドゥ』とは、菓子メーカー『不二家』の一族、藤井和美氏が1979年に六本木に作ったディスコのこと。熱狂的なファンがいたものの、わずか16か月で閉店したこともあり、伝説のディスコとして語り継がれていた。そして四半世紀が過ぎ、当時ダンサーだった澤村進さんが「大人の社交場をもう一度作りたい」と、藤井氏から正式に受け継ぎ、当時のロゴそのままにキサナドゥを復活させた。これまでは不定期に、“ハコ”を借りてディスコイベントを行うスタイルだったが、今では毎月第2木曜と第4金曜の夜に開かれている。
「当時遊んでいて“懐かしい”というかたはもちろんですが、実はそれ以上に、あの頃は勉強に一生懸命でディスコで遊べなかったという人が、多くいらっしゃるんです。それからバブル時代をまったく知らない20代の若い子たちも面白がって来てくれている。
あの頃のディスコって、先進国の象徴だったんです。戦後の高度経済成長期を経て、日本も自由なんだ、社交場を作るべきだという熱気があった。ここに来るまで紆余曲折もありましたが、それでもあの頃の雰囲気を伝えていかなきゃいけないという思いのほうが強くって」(澤村さん)
※女性セブン2016年12月15日号