「すみませーん、旦那さんいますかー」と呼びかけながら家の中に入っていく捜査員たち。彼らの目的に気づいた家人の女性は、「ちょっと待ってください!」と狼狽する──。これは“大麻村”での逮捕の瞬間の映像だ。臨場感あふれるニュース映像を撮ったのはフジテレビだった。
今回の事件では、フジの他、NHKと日本テレビが、それぞれ違う犯人の逮捕の瞬間をテレビカメラで収めていた。いずれも事件が一斉報道される2日前の11月23日に撮られた映像である。
今年2月に元プロ野球選手の清原和博氏が覚せい剤取締法違反で警視庁に逮捕された時は、TBSがその瞬間を押さえていた。
それにしても“緊急逮捕”の現場になぜテレビカメラがいるのだろうか。全国紙社会部記者が言う。
「実は23日にガサが入ったという話は新聞各社もつかんでいたが、マトリ(麻薬取締部)に問い合わせても“分かりません”と答えてくれなかった。後になって、“テレビ優遇措置”が取られたことを理解しました。
薬物関連の大きな事件では、テレビ記者にだけ情報がもたらされることがあるんです。警察やマトリはマスコミに自分たちの手柄を大々的に報じてもらいたい。となると、影響力の大きなテレビになる。全局に教えると、“スクープじゃないから”と扱いが小さくなるので、仲の良いテレビ記者にだけ教えるんです」
今回は22人の同時逮捕という大型事件だったからか3社にスクープが“提供”された。元厚労省麻薬取締官の高濱良次氏が明かす。
「私が現役だった頃、メディアを選ぶ基準は“どれだけ顔を見せに来ているか”でした。用も無いのに日頃から律儀に会いに来て、一緒にお茶を飲んで談笑してくれる記者はいいね。たまに来て、“いつ芸能人パクるんですか?”とがっつくだけの記者には教えない(笑い)」
かくしてマトリの“華々しい活躍”は“宣伝”されるのである。
※週刊ポスト2016年12月16日号