半年前、安倍晋三首相は「内需を腰折れさせないため」と消費税率10%への引き上げを再延期し、国民は「これで大増税が遠のいた」と胸をなで下ろした。
しかし、こういう時が一番危ない。財務官僚は大型増税ができないとなると、細かい増税や減税廃止、社会保険料アップで国民の負担を増やそうとする“習性”がある。
かつて小泉純一郎首相は「私の内閣では消費税は上げない」と約束したが、財務省はそのかわりに所得税・住民税の定率減税廃止、年金保険料の引き上げなどを実施し、政権が代わるときには国民負担がなんと年間13兆円(国民1人あたり年間10万円)も増えていて愕然とさせられた。
案の定、今回も“消費税を上げなかった分を取り返せ”とばかりに負担増ラッシュが始まった。
政府はまず「増税見送りで財源がなくなった」と、来年4月に廃止されるはずだった自動車取得税の存続を決め、来年度の税制改正で自動車やビール類への課税強化を次々に打ち出した。
「財源がないなら仕方がない」と鵜呑みにするとバカを見る。実は、安倍政権になって国と地方の税収は年間約21兆円も増えている(2012年の78.7兆円から2016年見込みは99.5兆円)。2014年に消費税率を8%に引き上げた分の税収増(年8兆円)を差し引いても年13兆円の純増だ。元大蔵官僚の高橋洋一・嘉悦大学教授が語る。
「実は財務省が税制改正で一番狙っていたのは配偶者控除の廃止です。メディアにも“103万円の壁(※注)が女性の勤労意欲を抑制している”とキャンペーンを張らせて準備万端のつもりだったが、官邸は途中から、配偶者控除の廃止ではなく、控除を増やしてパート主婦がもっと働けるようにする方針に転換した。
【※注/妻(もしくは夫)の年収が103万円までなら38万円の所得控除(配偶者控除)が受けられる。そのため、妻の収入を103万円以内に抑えようとする意識がはたらき、女性の社会進出を妨げているといわれる】
控除廃止で6000億円の増収をあてこんでいた財務省は面子が潰れた。まともな理屈で考えれば、せっかく消費税を延期して景気回復を優先したのだから、いま増税を急ぐ必要はない。しかし、この失敗で意地になった財務官僚は“それなら他でとってやる”といろんな増税に手を付け始めたわけです」
※週刊ポスト2016年12月16日号