「鼻水、咳、のどと腰の痛み、38度の熱がある」と病院を訪れた40代前半の女性。
インフルエンザを疑われ、検査をしたものの、結果は陰性。解熱剤と痛み止めを処方され、帰宅する。翌日熱は37度に下がったものの、腰の痛みはどんどん強くなり、嘔吐も続いたので再度病院に行くとそのまま入院に。痛みと発熱に加え、肝臓が肥大化する肝かん脾ひ腫しゆも見つかり、最初に病院を訪れた日から5日後、亡くなった。
死後、彼女の体から見つかったのは『人食いバクテリア』――。
正式名称は、『劇症型溶血性レンサ球菌感染症』。1987年に米国で世界初の症例が報告され、日本では1992年に最初の症例が報告された。感染者数は年々増え続け、今年は現時点で過去最高の442名と発表された。
突如現れた、このおどろおどろしい名前のバクテリア。そしてこの名の通り、発症するとあっという間に死に至るのだが、なぜ今、急速に、猛威をふるっているのか――。
◆人食いバクテリアって何?
人食いバクテリアの原因となる溶血性レンサ球菌は「どこにでもいる菌」というのは医師で医療ジャーナリストの森田豊さん。
「通常は感染しても、のどの炎症や傷の化膿を引き起こす程度で大事には至りませんが、抵抗力が弱っている場合などに、傷口などから侵入した菌が、血管を巡って全身に回り、重篤な劇症型の感染症を引き起こすことがあります」(森田さん、以下「」内同)
発症すると細胞が壊え死しして腕や脚が黒くなり、バクテリアに食べられたかのように見えるため、人食いバクテリアという名前がつけられた。
◆どんな初期症状なの?
発熱、寒気、筋肉痛、下痢、嘔吐、のどの痛み…初期症状はまるで風邪や、この時期から流行り出すインフルエンザや胃腸炎かのよう。
「そのほかの特徴は、傷口付近を手で押すと、強い痛みを感じることと、傷口以外にも痛みが広がってゆくことです」
発症してすぐであれば抗生物質などで完治するが、冒頭の女性のように風邪だと思って放置すると菌はあっという間に全身へ。