ドナルド・トランプ氏の米大統領選勝利後、米国の株式市場は連日のように過去最高値を更新したが、その背景には何があったのか。海外金融機関の動向について詳しいパルナッソス・インベストメント・ストラテジーズ代表取締役の宮島秀直氏が解説する。
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まず、米大統領選挙の結果が判明した直後の米国株式およびドルの上昇の経緯について、当事者へのヒアリングをもとに簡単に解説したい。
選挙結果の大勢が判明した時間帯は、日本の株式市場がオープンしていたときで、ドナルド・トランプ氏がほぼ当選確実となった報道を受け、日経平均株価は一時1000円超下げる場面があった。
しかし、それとは対照的に、その夜の米国株式市場は、寄り付きからプラス圏とマイナス圏が目まぐるしく入れ替わる展開となり、日本時間午前1時すぎからは急上昇を演じた。同時に、ドルも主要通貨に対して全面高の様相を呈していた。
私が、選挙直前の10月30日まで海外投資家にヒアリングをしていた相場とは、まったく異なる展開となったため、何が株式市場に起きているのか、すぐに主要な投資家にヒアリングを実施した。すると、以下のような事実が判明した。
ノーザントラスト、GEキャピタル、モルガンスタンレー・アセットといった中長期投資家である年金の運用会社は、静観をし、相場には参加していなかったと回答。また、ブラックロック、オッペンハイマー、JPモルガンなどの投信会社は、株価上昇局面では保有株式の一部について処分売りを行ない、「買い」は見送ったという。
他方、ウィントンキャピタル、ブリッジウォーター、PGIといったヘッジファンドは、取引の途中から、堰を切ったように株買い、ドル買い、国債売りに転じたという。つまり、大統領選直後の「株高・ドル高」を演出したのはヘッジファンド勢だったのである。
だが、選挙前のヒアリングでは、ヘッジファンドも他の海外投資家同様、トランプ氏の当選で株価は大きく下げると想定していた。実際、選挙前はショート(売り)ポジションを大きく積み上げており、それが「S&P500指数」の8日連続安につながっていたのだ。では、なぜ株買いを行なったのか。
実は、すでに多くのヘッジファンドは10月初旬からショートポジションを拡大。選挙直前には、運用リスクの管理上、これ以上積み上げることができないという限界点に達していたという。そこで、さらなる運用リスクの拡大を回避するため、結果がどうあれ、ショートポジションの解消=株買いに踏み切らざるを得なかったというのだ。
こうした事情はヘッジファンド各社に共通していたと見られ、大手がいったんショートポジションの解消に動いたことで他も次々と追随。投票日当日までマーケットのポジションがショートに大きく偏っていたため、瞬く間にトレンドが転換し、買い一色になったと考えられる。
ある世界最大手クラスのヘッジファンドでは、次のようなやり取りがあったという。
「ショートポジション拡大の限界に来た時点で、内部で議論があった。トランプの政策リスクを考えれば、運用リスク管理上の事情でロング(買い)に転じるのは危険という意見がある一方、上院・下院で共和党が多数を占めた結果と選挙直後の議会との融和を意図するトランプの勝利スピーチを考慮すると、法人および個人の減税など政策の実現可能性が高まってきており、トランプ政権のポジティブな面にも注目すべきだという意見が出てきたのだ。その結論として短期的な戦術転換を決めた」
こうしたヘッジファンドの戦術転換は功を奏し、その後、NYダウは連続で終値ベースの史上最高値を更新するなど、米国株とドルは上昇を続けた。
※マネーポスト2017年新春号