親友である崔順実被告への機密流出疑惑に端を発した一連のスキャンダルで、ついに朴槿恵大統領が辞意を表明した。退陣を求めて100万人を超えるデモが頻発するなど、1か月以上にわたって続いた混乱がようやくこれで一段落するのかと思いきや、事態はそう簡単ではない。韓国在住ジャーナリストの藤原修平氏が言う。
「日本では朴氏が今すぐ辞任するかのような論調が目立ちますが、韓国では見方が違う。野党の弾劾要求に与党からも同調する動きが出てきたため、進退を先延ばしにするために機先を制したと見られているのです。
実は会見の中で朴氏は明確な辞意を表明しているわけではない。周りがそんなに辞めろというならば、私が辞めた後の韓国政治をスムーズに進めるための体制を作りなさい。ちゃんとできる状態になったら私はそれを受け入れますよということであって、いつ辞めるとも言っていません。
そうしたことから、朴氏の表明に韓国では『まだ言い逃れするのか』と怒りの声が多く、火に油を注いでいる。とはいえ、野党側も『辞めろ』の一点張りで明確な主義主張があるわけではないため、ますます韓国国内は混乱しています」
そんななか、韓国メディアに奇妙な現象が起きている。朴氏を追及する記事に紛れて、なぜか日本を持ち上げる論調が相次いでいるのだ。
象徴的なのが、11月22日に起きた福島県沖地震に関する記事だ。「地震後の日本の官民の災害対応システムは完璧に近いほどだった」(中央日報)、「早朝の地震でも3分で日本の官邸危機センター稼働」(朝鮮日報)と、韓国の大手紙がこぞって日本政府の迅速な対応を評価した。
なかでも東亜日報は「あまりにも違う日本の地震対応 安倍首相、地球の反対側でも17分で総指揮」と題した記事を掲載。地震が起きた際にアルゼンチンを訪問していた安倍首相が、わずか17分後には官邸との連携で指揮を執ったことを高く評価した。
韓国人が日本の首相を褒めるなどこれまでならあり得ないことのはずだが、一体どうしたというのか。答えはこの記事の末尾にあった。
〈セウォル号事件当時、朴大統領は青瓦台の執務室から500m離れた官邸にとどまったまま書面報告を受け、公式席上には7時間後にはじめて姿を現わした〉
つまり、朴氏の「空白の7時間」との対比で、安倍首相の「17分」が持ち上げられているのだ。
※週刊ポスト2016年12月16日号