11月17日、高齢者医療を研究する日本老年医学会などが「高齢者が気を付けたい多すぎる薬と副作用」と題したパンフレットを公開した。
昨年12月に発表された医療従事者向けの「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」から、薬との付き合い方や“高齢者で特に慎重な投与を要する薬物リスト”などを一般向けに改めて公開したものだ。作成メンバーの1人である、至高会たかせクリニック理事長の高瀬義昌氏が話す。
「パンフレット公開の背景には、高齢者を取り巻く深刻な多剤併用の問題があります。私はいま約350人の認知症患者の訪問診療を行なっていますが、1日10種類以上の薬を飲んでいる患者も珍しくありません。特に高齢者は多くの薬を併用することで副作用が起こりやすくなります。
リストの対象者は75歳以上と定めていますが、60歳以上の方でも、リストにある薬物の服用には慎重になってほしい」
厚労省によると、60歳を過ぎると1か月に7つ以上の薬を医療機関などから受け取る人が増え、75歳以上では約4人に1人にのぼる(『2014年社会医療診療行為別調査』より)。高齢者に副作用が顕著に現われるのは、加齢により肝臓や腎臓の機能が低下するためだ。
口から飲んだ薬は胃や小腸で吸収され、血液に乗って全身に運ばれる。その後、肝臓で代謝され、腎臓から体外に排出されるが、肝・腎機能が衰えると代謝や排泄に要する時間が長くなる。その分、薬が体内にとどまる時間も延びるため、薬が効き過ぎてしまうことになる。
リストの中で最も種類が多いのは糖尿病薬だ。スルホニル尿素薬(SU薬)は、糖尿病内服治療薬の中ではもっとも多く使われている。約10年前に糖尿病を患って以降、SU薬を服用している関西地方在住の増田敏弘さん(仮名・67)が言う。
「今年の夏、食後にSU薬を飲んだら突然意識を失ってしまったのです。気が付いたら病院のベッドの上でしたが、幸いにも倒れたのが自宅の廊下だったため大きなケガはなく、その日のうちに退院できました。搬送先の医師から“意識喪失は、SU薬の副作用の低血糖が原因でしょう。長年の多剤併用が誘発したと考えられます”と説明されました」