コラム

米景気後退懸念あるが一方的なドル高・円安考えにくい

米国景気後退懸念で為替はどうなる?

 為替市場はアメリカの連邦準備制度理事会(FRB)が12月中にも再度の利上げをするとのコンセンサスが高まっているが、今後の為替相場のトレンドはどうなるのか、為替のスペシャリストで酒匂・エフエックス・アドバイザリー代表の酒匂隆雄氏が解説する。

 * * *
 FRBがマーケットのコンセンサスどおりに金融政策を実施したとしても、ドル高/円安がどんどん進行するといった状況にはならないのではないかと見ている。それは、米国の政策当局がドル高に対して強い懸念を持っているからだ。

 そもそも、イエレンFRB議長は、過去の会見で「ドル高はアメリカ経済にとって打撃になる」といったコメントをたびたび発している。また、米財務省は、年2回半年ごとに発表する為替報告書のなかで、2016年4月発表分で日本を新たに「監視対象」リストに載せ、10月発表分で引き続き「監視対象」としている。その理由は、大規模な経常黒字や対米貿易黒字が発生しているというもので、明らかに円安をけん制している。

 さらに、トランプ次期米大統領は、選挙戦を通じて保護主義的な主張を繰り返しており、就任後も当面そのスタンスは変えないだろう。つまり、通貨に関わるあらゆる政策当局は、ドル高に対して懸念を有しているのである。こうした状況下、対ドルで円安が進行するとは考えにくい。

 加えて、ファンダメンタルズ面での円高要因も強まりつつある。貿易収支および経常収支における黒字の増大傾向だ。

 国際収支統計速報によると、2016年度上半期(4~9月)の輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2兆9955億円の黒字だった。半期ベースの黒字額としては10年度上半期(3兆3315億円)以来の大きさとなっている。

 同じく、2016年度上半期の経常収支の黒字額は、前年同期比20.5%増の10兆3554億円。年度の上期としては2007年以来9年ぶりの高水準で、2008年のリーマン・ショック以降では最大の黒字を記録している。

 黒字増大の要因としては、なんといっても原油安による輸入額の減少の影響が大きい。また、経常収支の黒字には訪日外国人の増加が貢献している。原油価格は一時期の低迷から脱した格好だが、WTI原油で1バレル=50ドル台の維持は容易ではなさそうだ。当面、高水準の黒字が継続すると考えるのが妥当だろう。これは実需面での大きな円高要因となる。

 さらに、2017年は、米国の景気についての不透明感が増してくると考えている。循環的にみると、いつ米国経済が下降局面に入ってもおかしくないからだ。

 現在の景気拡大は、リーマン・ショックによる景気低迷から脱した2009 年 6 月からスタートしている。つまり、2016年12月で拡大期間は7年6か月、90か月続いていることになる。戦後となる1945年以降の平均58.4か月をはるかに上回り、これまで最長だった前回の拡大期間(2001年11月~2007年12月)の73か月を大きく超えている。

 すでに、FRBの複数の委員は、「米経済はすでに完全雇用、もしくはそれに近い状態」であるとコメントしており、景気拡大はピークにある可能性は高い。利上げ論議をしているうちに、景気後退局面に転じるリスクが意識される場面が出てくるのではないか。

 となれば、日米金利差拡大によるドル高/円安シナリオは完全な修正を迫られることになる。私は、2016年12月から2017年末にかけての間では、利上げは2回しかできないのではないかと予想している。

※マネーポスト2017年新春号

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