首都圏の新築マンション市況は調整局面に入っている。そんな中、タワーマンションの高層階の固定資産税引き上げ方針が出されたことにより市場にどのような影響が出るのか。不動産の市況調査を手がける東京カンテイ市場調査部の井出武・上席主任研究員が解説する。
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一戸平均価格がミニバブル期の水準を超えて5000万円台に突入した2015年をピークに、首都圏(東京、神奈川、千葉、埼玉)の新築マンション市場は2016年1月から調整局面に入っている。価格が下落しているエリアも出始めており、特に価格が高くなりすぎた千代田区や港区などでは伸びの鈍化が顕著にみられる。
千代田区や港区は、高額所得者が買う物件がある一方、投資に向く物件も多い。練馬区や板橋区のような実需のニーズで大部分が占められているエリアと異なり、都心の一等地は投資のニーズが積み重なってくる。首都圏の新築マンション市場は近年、投資ニーズが牽引して価格を押し上げてきたが、価格が高騰すると利回りが低下してしまうため、投資家も慎重にならざるを得ない事情がある。
ただ、一時の旺盛な買いはないとはいえ、海外の投資家や富裕層の間では、麻布、赤坂、青山の「3A(スリーエー)」地区、千代田区の「番町アドレス」は根強い人気がある。価格が落ち着いてくれば、彼らの買いも期待でき、価格がバブル崩壊後のように大幅に下落していくことは当面ないだろう。
人気も価格も著しく上昇している湾岸エリアのタワーマンションも同様だ。たとえば中央区勝どき地区、東京オリンピック選手村建設予定地の同区晴海地区、江東区などでは、平均坪単価300万円を超える高額物件が話題になっている。だが、さすがに坪300万円を超えてくると、湾岸エリアにこだわらず、港区の中古物件など他の好立地に選択の幅を広げる人も多くなると思われる。
政府・与党は、2016年12月にまとめる2017年度税制改正大綱に、タワーマンションなど高層マンションの高層階の固定資産税を引き上げる方針を盛り込む見通しだ。現行では1階も50階も同じ面積なら、相続税の算定基準でもある固定資産税評価額は同額になる。このため、取引価格が高い高層階を買って、現金で相続するよりも相続税を低く抑える「タワマン節税」が富裕層の間でも人気を集めていた。
大綱が発表されるまで全貌はわからないが、20階建て以上の分譲物件を対象に、高層階になるほど固定資産税が高くなり、低層階は減税となる方向と報道されている。18年以降に引き渡す新築物件が対象といわれているが、現状のところ課税強化の動きはさほど大きくなく、湾岸タワーマンション物件への向かい風は限定的とみている。
湾岸エリアの物件は、購入して貸すという投資目的で買う人が多い。借りる方も高層階を望む。したがって、節税効果が薄れれば、タワーマンションを購入対象から外してしまう投資家や資産家は増えるのではないか。投資層が抜け、実需層が大半のマーケットとなると、今までのように分譲価格をどんどん上げられる状況ではなくなるだろう。湾岸タワーマンション物件の供給は今後、さらに増加すると予想されており、売れ行きがどうなるのか懸念する向きもある。