朴槿恵大統領の一連のスキャンダルがきっかけで、韓国メディアでは日本を持ち上げる論調の記事が続出。韓国の国民の失望感は大きく、激しい対抗心を燃やしてきた日本を褒める記事が、今や国民に受け入れられているという。
ただし、今の韓国を覆うショックは、一時的な現象では済まされない。韓国政治に詳しい浅羽祐樹・新潟県立大学国際地域学部教授は、その失望感は韓国の歴史観の上に立つものなのだと言う。
「韓国では40年前に朴大統領の父・朴正煕大統領が軍事独裁政権を率いていた頃から民主化闘争が始まり、激しい闘争を経て民主化を獲得したことで、近代国家になったと考えられてきた。
そのときから韓国は、家族的な情に政治が翻弄されやすい国民性と、政治から情を排除しなければならないという近代国家の建て前の狭間で苦しみ続けてきた。韓国のほとんどの歴代大統領が家族の問題で失脚しているのはこのためです。
そのなかで朴大統領は、両親を暗殺され、弟とも妹とも疎遠で、かつ独身であり、情に流されることのない本当の民主政治がついに実現すると国民は期待したわけです。しかし、現実には“疑似妹”の崔順実に利用されていた。そのような状況になるまで許してしまっていたことに韓国国民はショックを受け、自責の念に駆られているというのがあのデモの本質なのです。
デモの異常な盛り上がりは、近代国家を目指しながら40年前、つまり民主化以前の朴正煕の時代から全く変わることができなかったという国家全体の悔しさが爆発しているのだと思います」
朴氏と崔順実被告の関係は、1974年、朴氏の母だった朴正煕夫人が暗殺されたことに端を発する。崔被告の父で「韓国のラスプーチン」と呼ばれた崔太敏氏が朴氏に「亡くなった夫人が枕元に立ち、『娘に私の思いを伝えてほしい』と言われた」という手紙を送ったことから、この一家と朴氏の関係が始まる。
つまり、韓国の国民が情から離れた民主政治を確立しようとしてきた40年の間に、その集大成だったはずの朴氏は崔被告との情をひたすら育んできたのである。皮肉としか言いようがない。
※週刊ポスト2016年12月16日号