【書評】『岡部いさく&能勢伸之の ヨリヌキ週刊安全保障』/岡部いさく(監修・執筆・イラスト)能勢伸之・執筆/大日本絵画/2300円+税
【評者】山内昌之(明治大学特任教授)
あるテレビ放送で「安全保障」について毎日、毎週ごとに番組を編成していることはあまり知られていない。その番組アンカーとゲストの軍事評論家の対談のエキスを編集した本である。そこに軍事を知らなかった女性マルチタレント小山ひかるさんが絡むのだから、安全保障論がこれほど身近に感じられる機会もない。
たとえば、M1A2SEPV2なる戦車について、車体が旋回しても砲塔がピタッと動かず車体だけ回るとアンカーが説明すると、タレントは「すごい。なんで?」と素朴に反応する。するとアンカーは、いまの戦車はこういうことができるのが多いんです、とやや冷淡に返す。
タレントは、普通だったら大砲が動きそうと素直に反応する。「大砲は実際動きますよ」とゲストの答えはニベもない。これを引き取ってアンカーが懇切に説明しながら、番組や本の流れも進行していくといった塩梅だ。
話題は、防衛大学校卒業式にも及ぶ。アンカーやゲストが名物の帽子投げに触れると、タレントはアメリカの高校生も投げてますと返す。ゲストはすかさず事務的に「ああ、そう」とうなずくだけ。彼女が「ゲンちゃんが映っている!」と素っ頓狂な声を出すと、「中谷元防衛大臣ね」とゲストはやんわりたしなめる。
タレントは、防衛大を卒業して任官しないのが不思議でならないらしい。民間企業に行く人もいるというと、「じゃあなんで、行ったんですかね」と至極真っ当な問いを出す。こうなるとアンカーやゲスト、どう答えるべきかややたじたじとなる。
私なら、民主主義国家の教育は適性に応じた多様性を許すものであり、在学中に成人を迎えるなかで考え方や生き方が変わることもある、と真面目に答えるかもしれない。しかし、アンカーは給料がいい仕事の話が来たからかもしれない、とユーモアに富む話をする。
真面目な雰囲気を保ちながら難解な安全保障や兵器体系について、図入りで分かりやすく説明してくれる好著である。
※週刊ポスト2016年12月16日号