高齢者医療を研究する日本老年医学会などが11月17日、「高齢者が気を付けたい多すぎる薬と副作用」と題したパンフレットを公開した。
昨年12月に発表された医療従事者向けの「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」から、薬との付き合い方や“高齢者で特に慎重な投与を要する薬物リスト”などを一般向けに改めて公開したものだ。
リストの中には「飲んでも意味のない薬」もある。イシハラクリニック院長の石原結實氏の解説だ。
「睡眠薬と抗精神病薬は一緒に処方されることが多いですが、どちらも長年服用を続けると脳の血流を滞らせ、認知機能の低下を招くなどの副作用が出るおそれがあります。特に睡眠薬は、そもそも高齢者が服用する意味がどれほどあるのか疑問です。
60歳を過ぎれば、夜は4時間半ほど眠れば充分。日中に1時間程度でも昼寝を取れば、理想に近い睡眠といえます。60歳を超えると睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌が極端に少なくなるため、年とともに眠る時間が短くなるのは自然な現象なのです」
抗うつ薬も認知機能の低下や幻覚、せん妄などの副作用があり、高齢者の場合、せん妄による転倒事故が数多く報告されている。
脳梗塞や心筋梗塞の治療に使われる抗血栓薬は血栓(血の塊)を防ぎ血液をサラサラにする効果がある半面、止血作用も弱めるため、胃潰瘍や消化器官の出血といった副作用を起こしやすい。血管の衰えた高齢者だと、副作用として脳出血を引き起こすケースもあるというから注意が必要だ。江戸川病院院長の加藤正二郎氏が言う。
「心筋梗塞に繋がる狭心症や不整脈の治療に使われる薬『プロプラノロール』はベータ受容体遮断薬とも呼ばれ、心拍を抑え、心臓を休ませる作用がありますが、心肺機能の弱まった高齢者が服用すると、脈が遅くなり過ぎたり、心不全などの副作用が出やすくなります」
※週刊ポスト2016年12月16日号