「税は国家なり」という。税制の設計次第で国の経済活動や社会の形まで変わるからだが、この国の役人たちはアテにしていた消費税増税が再延期されると、“ならばどんな口実で国民から税を巻き上げるか”と狡知をめぐらせ、あの手この手を打ち出してきた。
エコカー増税、タワーマンション増税、ビール類増税などはその典型だが、地方自治体も国の増税路線に便乗して“おバカ税制”を廃止しようともしない。
今回の税制改正で焦点になったのが唯一の“スポーツ課税”である「ゴルフ場利用税」の廃止問題だ。この税金は「ゴルフは金持ちの道楽」として1950年に導入され、税額はゴルフ場によって異なるが標準税率で1日あたり800円、最高は1200円と高額だ。都道府県税として税収総額は500億円に達する。
ゴルフ団体や国会のゴルフ議連は「いまやゴルフは庶民のスポーツ、五輪競技にもなった」と廃止を主張しているが、総務省や自治体側は「財源が失われる」と廃止に強硬に抵抗し、存続の方向になった。
東京都には都民がほとんど知らない「東京都宿泊税」がある。石原慎太郎・都知事時代の2002年、「世界の主要都市に比べて東京の観光客が少ない。客を増やすために宣伝が必要」という理由で創設。都内のホテルや旅館への宿泊費(1泊1万円以上)に1泊100~200円課税し、都の観光振興事業に使われている。
それが今やインバウンドで東京には観光客が殺到し、東京五輪までにホテルが約1万3000室足りないという試算もある。宿泊税の税収もうなぎのぼり。今や年間20億円にのぼる。
とっくに当初の目的を達成し、もはや客から宿泊税を取る必要はないはずだが、東京都は廃止するどころか、税収増にウハウハ、それを見た大阪府が来年1月から宿泊税を導入するなど、全国に新税創設の動きが広がりそうな気配なのだ。「民間税制調査会」共同代表の三木義一・青山学院大学学長(租税法)がいう。
「これまでは大阪で課税したら客が近隣の都市に逃げると思われていたが、外国からの観光客増加でその心配がなくなったのでしょう」
観光客を増やすための税が、“増えた観光客からぼったくれ”税に変質した。いまや国の役人も地方の役人も「取れる奴から容赦なく取れ」なのだ。
※週刊ポスト2016年12月16日号