米大統領選挙でドナルド・トランプ氏が勝利し、株式市場は「トランプ・バブル」に沸いているが、はたして日本経済はどんな影響を受けるのだろうか。経済アナリスト・森永卓郎氏が、トランプ大統領誕生が日本経済に及ぼす「負の影響」について解説する。
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大方の予想を裏切り、11月には米大統領選でドナルド・トランプ氏が勝利を手にしました。ここしばらくの主要な選挙で、私の嫌いな人物や政党がことごとく勝利していたので、今回も嫌な予感がしていたのですが、まさにそれが現実になってしまいました。日本経済が暗雲に覆われるのは間違いありません。
トランプ大統領誕生で日本経済が受ける影響は、主に3つあります。1つは安全保障。トランプ氏は、日本は米国の防衛力にタダ乗りしているという主張を繰り返してきました。日本は自力で防衛すべきとして、一時は日本の核保有を容認する発言までしていました。しかし、本音は次の発言にあると思います。
「もし日本が引き続き米国に守ってもらいたいなら、米国に対する負担を大幅に増やさなければならない」
日本政府が自主防衛路線を採る可能性はほとんどないので、日本は少なくとも数千億円単位で負担を増やさなければならなくなるでしょう。それは、財政の大きな重荷になります。
2つ目は、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)。トランプ氏はTPPに反対です。今のTPP合意は日本にとって不平等条約ともいえる非常に不利な内容で、トランプ氏がご破算にしてくれれば、日本経済にプラスのようにも見えます。しかし、トランプ氏の通商政策はそんな甘いものではありません。
トランプ氏は、TPP合意というちゃぶ台を一度ひっくり返して、ゼロから、日本にとってはるかに厳しい要求を突きつけてくると思われるのです。これは、じわじわと日本経済の首を絞めていくことになるでしょう。
3つ目の、そして最大の影響は、為替政策です。昨年の演説でトランプ氏はこういっている。
「日本の安倍首相は、(米国経済の)殺人者だが、ヤツは凄い。地獄の円安で、米国が日本と競争できないようにした」「キャタピラーがコマツより売れないのは、円安誘導のせいだ」
為替レートを決める要因のひとつに、資金供給の比率があります。つまり、日本が金融緩和で資金供給を拡大すると、為替は円安に向かうということです。トランプ氏が批判しているのは、実はアベノミクスの金融緩和政策なのです。
為替が1ドル=79円の超円高となり日本経済が危機に陥った民主党政権の末期に、私は民主党幹部に、「今すぐ大規模金融緩和をしないと日本経済が危ない」と進言しました。だが、その幹部は私にこういったのです。
「金融緩和なんて、米国が絶対認めるはずがないだろう」
日本は米国のお許しがないと、金融緩和ができないのが現実です。だから、トランプ大統領の誕生で、日銀は追加の金融緩和を封じられてしまう。そうなったら、超円高が日本を襲い、製造業が次々に海外へ逃れ、製造業で働く派遣労働者が一斉に派遣切りにあうという、4年前の悪夢が再現されることになる。トランプ氏は、アベノミクスの破壊者となるのです。