トランプ政権でアメリカの外交政策が大きく方針転換すれば、日本もそれに対応しなければならなくなる。すでに在日米軍の駐留経費を日本が全額負担しろと言っている。また、NATO(北大西洋条約機構)について「加盟国はアメリカの気前の良さに感謝していない」と批判してきた。アメリカがNATOを離脱すれば、ヨーロッパの安全保障は大きく揺らぐ。大前研一氏が「新たなアメリカ」との向き合い方を指摘する。
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アメリカと中国の関係は当然ギクシャクするだろう。トランプ氏は、アメリカの雇用を奪ったのは中国だ、中国製品に関税をかける、中国に出て行ったアメリカ企業を呼び戻すと言っている。これは米中関係にとっては相当なマイナス要因だ。
本当にトランプ氏が公約通りのことを実行したら、中国は反発して保有しているアメリカ国債を売り始める可能性がある。「売るぞ」と脅しただけでも、アメリカ国債は暴落するだろう。これはトランプ氏が考えていない最大のリスクである。
ただし、アメリカ国債を大量に保有しているのはアメリカではなく日本と中国と中東産油国だから、返り血を浴びるのは日本と中東産油国だ。アメリカの場合、日本と違って国内に自国の国債を買っている金融機関などはほとんどない。自分たちの借金の大半を外国にバラ撒いているのだ。
ことほどさように我々はトランプ外交が生み出す様々な世界秩序の変化を想定しなければならないわけだが、その一方でトランプ大統領の“命”は1期4年で終わる可能性が高いだろう。なぜなら、中国製品などに関税をかけたり、海外からアメリカ企業を呼び戻してアメリカ人に雇用を与えたりすれば、物価に大きな上昇圧力がかかってハイパーインフレになるからだ。
したがって大統領就任後のトランプ氏は、次々と公約の修正を余儀なくされてギリシャのチプラス首相のように国民の支持を失うか、フィリピンのドゥテルテ大統領のように何が何でも本質的に変わらないというスタイルを貫くか、どちらかの状況になるだろう。
私は、おそらくチプラス化するのではないかと思う。もしかすると、1期目の途中で二進も三進もいかなくなって政権を投げ出してしまうかもしれない(その場合の大統領はキャラのない副大統領マイク・ペンス氏になる)。日本はそういう事態も想定しながら、(言ったことを分刻みで変えていく)トランプ次期大統領と付き合っていかねばならない。
※SAPIO2017年1月号