映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、松平健が、製作本数も減りスタッフの後継者不足が危惧されるなか、時代劇役者として第一線に立ち続ける心境を語った言葉からお届けする。
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松平健は1979年、NHK大河ドラマ『草燃える』に出演している。鎌倉幕府草創期の権力闘争を描いた本作で、松平は第二代執権となる北条義時を演じた。義時は当初は好青年だったが、終盤になると政敵を陥れていく野心家に変貌する。当時の松平は『暴れん坊将軍』では庶民のヒーロー・吉宗を演じており、対極的な権力者役を同時期にこなしていたことになる。
「あの頃は東京と京都を行き来して、一週間のうち3日を東京で『草燃える』、あとの4日は京都で『暴れん坊』に出るという生活でした、全く違う男なので、面白かったですね。扮装を変えたら、自然とスイッチの切り替えはできていました。
義時は最初『最後に天下を取る男』ということしか聞かされていませんでした。大事にしたのは目ですね。『天下を取る』というハッキリした目標に進む役なので、とにかくギラギラした目で演じました。天下を取るために邪魔者は排除していく。そういう人間を演じるには、何もないところからは出てきません。誰しもきっと持っている裏の部分といいますか、悪いところを芝居で出す時は『もし、自分ならどうするか』から考えます。
その時に参考になったのが、勝先生の映画『不知火検校』でした。女を利用してのし上がっていく男の話で、酷い男なんですが。あの時の先生の芝居を観ながら、ああいう役の場合は欲望や自分自身の気持ちを出さないといけないと思いましたね」