現職大統領による国家機密漏えい事件で大きく揺らぐ韓国社会。朴槿恵大統領はなぜ、怪しげな宗教者の言いなりとなったのか。産経新聞ソウル駐在客員論説委員の黒田勝弘氏が、韓国社会に浸透する「信仰心」の罠に斬り込む。
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「朴槿恵─崔順実スキャンダル」は、ネットを中心に“ムーダン疑惑”として嘲笑の対象になっている。ムーダンとは、韓国の伝統的な霊媒・占い師のこと。「朴と崔」の関係は、崔の父・崔太敏が“牧師”と称し、霊媒師紛いの言辞で朴槿恵の心を掴み、その後、一家をあげて彼女に食い込んだことから始まった。
ちなみに韓国でのムーダン文化の一端を紹介すると、筆者の知人の祖母がムーダンの病気治療や人生相談に凝っていて、ある時、ムーダンの言いなりになって300万ウォン(約30万円)を献金したという。「日ごろ子供たちからもらっている小遣いを貯めていて、それをみんなはたいてしまった。ったくもう……」と知人は大いに嘆いていた。
先年、不正経営で逮捕された某大財閥の首脳が、企業投資の展望を専属のムーダンに頼っていたとして話題になっている。それを笑ったところ、別の知人は「日本でも会社や家庭に鳥居や神棚があって拝んでいるそうじゃないですか」と逆襲(?)してきたが。
ところで、「魏志倭人伝」に登場する有名な邪馬台国の女王・卑弥呼は「鬼道に事え、能く衆を惑わす」とある。「鬼道」とは霊媒・占いのこと。大昔、原始集団において王の支配権を支えたのは、そうした呪術的超能力だった。卑弥呼も朝鮮半島系だったか?
ただ、現在の韓国は正統派のキリスト教が社会的、政治的に大きな影響力をもっている。ムーダンなどの“伝統宗教”は邪教的として表向きは非難、排斥されがちで、現実政治に入り込む余地はない。
現実政治への影響では、日本流に言えば陰陽道である「風水」信仰の方だ。山や川などの自然環境から人や国家の運勢を占うものだが、大統領選をはじめ韓国の政治や社会を左右してきた地域対立には、この風水説があると言われてきた。
地域対立とは簡単に言うと、韓国南西部の全羅道に対する差別意識のことである。全羅道は金大中政権(1998-2003年)誕生で1000年ぶりに権力を握りはしたが、今なお野党勢力の牙城であり、社会的に他地域における差別意識は消えていない。
その差別の背景には高麗朝(10-14世紀)の始祖・王建が残した遺言があるというのだ。
「全羅道は人に背く地勢だから権力に近付けてはならない」という、まさに風水説である。今も韓国社会に残る全羅道差別意識の根源は「信用できない、いつかは裏切る」だ。外国人にはなかなか実感できないけれど。
※SAPIO2017年1月号