年末というのは何かとお酒を飲む機会が多いもの。誰しも一度や二度は「酔った勢いで……」という経験がおありだろうが、酔った勢いで紙ナプキンに離婚同意を記してしまった場合、効力はあるのか? 弁護士の竹下正己氏が回答する。
【相談】
妻と離婚について協議中です。私は別れたくないのですが、妻が譲りません。先日、カフェで話し合い中に酔ってしまい、紙ナプキンに離婚の合意を書いてしまったようなのです。以来、妻は以前より増して離婚を迫ってきますが、そもそも紙ナプキンに記したものに法的な効力があるのでしょうか。
【回答】
離婚する意思がないのであれば、離婚届を出す義務はありません。離婚する主な方法は協議離婚、調停離婚、裁判離婚の3つです。
このほかに審判離婚の制度がありますが、あまり使われません。裁判離婚は、離婚を認める判決が確定すれば離婚の効力が発生します。また、離婚裁判の手続き中に和解をしたり、被告が原告の離婚請求を認諾したときも同様です。
調停離婚は、離婚の合意が調停手続きでされるため、判決と同じ効力を持ち、調停成立と同時に離婚の効力が生じます。他方、協議離婚は裁判所の手を借りず、夫婦だけの同意でする離婚ですが、夫婦の間で離婚の意思の合致があって、役所に届け出をした時点で離婚の効力が生じます。
いい換えれば、届け出時点に離婚意思がないと無効です。一旦、離婚しようと約束し、離婚届を作っても、届け出をするまでは翻意でき、約束は白紙になり、離婚するという約束は法的に効力を持たないことになります。
裁判や調停で話がまとまって、調停離婚すると、報告的な届け出を一方がすれば足りますが、戸籍に「調停離婚」の記載が載ることを嫌い「離婚届を出す」という内容の調停をすることがあります。
その場合には、離婚届の用紙を別に用意し、署名させた上で離婚を希望する当事者が預かり、役所に届け出るようにすることもあります。それでも、その当事者が翻意して離婚届を出さないことになれば、調停での約束は実現されないことになります。それくらい、離婚届は重要です。
酔った勢いで、紙の切れ端に書いた離婚約束にとらわれることはありません。とはいえ、離婚したくなければ、いざというときに離婚も覚悟しているといった誠実な対応の証として受け止めてもらい、復縁の誠意を見せるべきでしょう。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2016年12月23日号