60歳で定年してから猫を飼い始めたという、元銀行員のAさん(74)は嘆く。
「還暦と同時にメスのスコティッシュフォールドを飼い始めました。胡蝶蘭が好きな妻が『ランちゃん』と命名して、娘同然にかわいがっていた。
ですが、13歳を超えたころから嘔吐を頻繁に繰り返すようになって、獣医に診せたところ末期の腎不全と診断された。最期は寝たきりで、今年、14歳で亡くなった。以来、妻が塞ぎ込んでしまって。病気の兆候に早く気づけなかったことが悔まれます」
14歳まで生きたことは、猫の平均寿命(11.9歳)に比べれば大往生かもしれない。それでも「もっと長生きさせてあげられたかも」と後悔する気持ちはペットを飼う人なら誰もが共感できるだろう。
猫は他の動物に比べて腎不全で死亡する割合が突出して高い。日本アニマル倶楽部の調査によれば、猫の死因の22%にものぼる。だが、長い間、「なぜ猫だけ腎不全が多いのか」という原因は解明されていなかった。そのため治療法も確立できず、猫の腎不全は“不治の病”とされていた。
そんななか、今年10月、愛猫家たちに吉報となる研究結果が出た。東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センターの宮崎徹教授が原因を突き止め、『サイエンティフィック・リポーツ』(電子版)に発表した。宮崎教授の解説。
「人間をはじめとする多くの動物は、体内に脂肪を融解するたんぱく質の一種『AIM』を備えていて、これが尿管の詰まりを解消し、腎不全を防ぐ働きをしています。ところが、猫の『AIM』は他の動物と微妙に異なり、その機能を備えていなかったのです」
宮崎教授は、他の動物のAIMを培養して猫に投与した。すると、尿管の詰まりを除去する効果が確認できたという。つまり、猫以外のAIMは、猫にとっても腎不全の予防薬となるのだ。
「すでに予防薬の開発を始めているので、3年後を目途に実用化したい。そうすれば、猫の寿命があと5~10年延びることも夢ではない」(同前)
この研究結果はネット上で拡散され、世界中の愛猫家から称賛の声があがった。
※週刊ポスト2016年12月23日号